受動喫煙症の診断書は根拠にならない、と彼は言った

写真はイメージです。石野卓球はそんなこと言いません。多分。


「受動喫煙症の診断書なんか根拠にならない」
これを僕=煙福亭が言ったのでは新鮮味のかけらもないお話ですが、今回は違います。
それが問題です。

何故ならTwitterでこれを言ったのは、自ら申し立てた労働審判に受動喫煙症の診断書を提出した、そのご本人であったからです。

このツイートは梅田なつき氏が、横浜副流煙裁判被告の妻・藤井敦子氏に宛てたメッセージ。
僕は横浜副流煙裁判にも梅田氏の申立てた労働審判にも関心を持っていたので、二人の会話に割り込みTwitterで梅田氏と会話を交わしました。

梅田氏は昨年(2020)11月、労働審判を申立てています。勤めた会社での受動喫煙により体調不良を起こして休職、職場環境改善を訴え休職したまま半年以上が過ぎ、解雇された。これを不当としてのことで、受動喫煙症の診断書は、ここに提出されました。(注1)
にも関わらず「あんなもん根拠になりません」と言うのです。

僕はずいぶん勝手な言い草だと思うと同時に、画期的な宣言であるとも感じました。何故なら受動喫煙の害を訴える人の中で、「受動喫煙症の診断書は根拠にならない」と言ってのける人を初めて目にしたからです。

ただし梅田氏はその後のツイートで「法的根拠にならない」と言ったのであって「医学的根拠がない」とは言っていない、と言葉を補います。
あたかも「自分は最初からそう言っていた」という口振りから僕は、ただの言い逃れ、誤魔化しなんだろうと思ったのですが、しかし。

受動喫煙症の診断書について「法的根拠」と「医学的根拠」を別のものとして考えてみるのは、面白いアイデアかも知れません。僕は今まで「医学的根拠がない故に法的根拠にならない」ものだと考えていたのです。そこで一旦、両者を独立したものとして考えてみます。さてどうなるでしょうか。

梅田氏は受動喫煙症の診断書は「法的根拠にならない」と言う。しかしそもそも「診断書が法的根拠とならない」なんてことがあり得るのかと思います。
診断書は医師の手による証明書として、つまりは法的根拠として様々な場面で有用とされます。事故や事件の証明、労災認定、障がい者認定、成年後見制度の申立てなど。この為、医師以外の者(看護士や薬剤師など)が診断書を書くこと、患者を診ずに診断書を書くことは医師法で禁じられています。それほどに診断書とは信頼性・証拠能力が高いものなのです。ナメてもらっちゃ困ります。

もちろん「虚偽診断書作成罪」というものがあるように、個々の診断書について「法的根拠とならない」事態は存在する。横浜副流煙裁判においても、作田学医師の「医師法20条違反」によりその診断書が法的根拠とされなかった面がある。けれど或る疾患についての診断書一般が(つまりこの場合は受動喫煙症の診断書すべてが)「法的根拠にならない」というのは、異常なことです。あり得ないとすら言えます。梅田さんなに言ってんのと思います。

しかしそれでもなお、梅田なつき氏は正しい。
「受動喫煙症の診断書なんかは、法的根拠にならない」これは今や事実に近い状態にあるのです。

つまり横浜副流煙裁判(2021年10月高裁結審)では、作田学医師の医師法20条違反とはまた別に、「受動喫煙症の診断」そのものが「患者の自己申告のみに基づき、客観的裏付けを持たない」ゆえに被害の証拠とすることはできないのだと、判決に述べられているからです。

「日本禁煙学会が提唱する診断基準に従って「受動喫煙症」と診断されてはいるが、その診断が、受動喫煙自体を原告らの主訴のみに依拠して判断し、客観的裏付けを欠いている以上、現に原告らの受動喫煙があったか否か、あるいは、仮に受動喫煙があったとしても、原告らの体調不良との間に相当因果関係が認められるか否かは、その診断の存在のみによって、認定することはできないといわざるを得ない」一審判決12ページ

「かかる控訴人らの主張を前提とした診断書の記載を基にして、控訴人らが被控訴人宅からのタバコの副流煙によって受動喫煙症に罹患したと認定することは困難であるといわざるをえない」控訴審判決8ページ

この裁判には、作田医師のものに加え、倉田文秋医師による受動喫煙症診断書も証拠として提出され、またその診断基準については日本禁煙学会・松崎道幸医師も意見書を提出していました。つまり上の批判はこの倉田医師の診断を含み、診断基準をも検討した上で、受動喫煙症診断一般について述べられたものだと考えられます。
この判例に対する有効な反論がなされない限り、「受動喫煙症の診断書は法的根拠にならない」これは事実だと言える。僕は梅田氏とともに、こう考えるものです。
そしてこの裁判については、判決文に加え作田学医師などの意見書までを読むことが出来ます(注2)。読めば誰でもこの判決の根拠を知ることが出来、また読めば多くの人がその妥当性を認めざるを得ないことでしょう。


さてでは「医学的根拠」です。

横浜副流煙裁判について見れば、これは簡単です。受動喫煙症診断に「医学的根拠」がないからこそ「法的根拠」となり得ない。つまりは「客観的根拠を欠いているから」です。
一審判決においてはさらに受動喫煙症診断及び診断基準について「政策目的」と断じています。

但しここにちょっと注釈がつきます。高裁判決では「(客観的裏付けがなくとも診断できる点について)患者を治療するという医師の立場での診断方法としては理解しうるところではあるが」としている。
ここは考えるポイントになるかも知れません。

受動喫煙症の診断書に「法的根拠」はなくても「医学的根拠」は認められるのかも知れない。
「患者を治療するという医師の立場」から考えるならば。

けれど受動喫煙症には治療の方法がない。これは日本禁煙学会、すなわち今現在、世界で唯一受動喫煙症を提唱している団体が認めていることです。
受動喫煙症と診断する医師にはそもそも、「患者を治療するという立場」が存在しないのです。

手詰まりです。

そこでじゃあ、そもそもの「受動喫煙症」という疾患の性格、つまり「受動喫煙症とはなにか?」を、考えてみましょう。
日本禁煙学会のつくった診断基準(version2)を見てみます。
http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/%20%20%E5%8F%97%E5%8B%95%E5%96%AB%E7%85%99%E7%97%87%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%9F%BA%E6%BA%96version2%20.xlsx%281%29.pdf

0〜5のレベルがあり、これに対応する症状・疾患名が並びます。
さてここにあるすべての症状は、他の病気でもありふれたものであり、またなぜ他の疾患名をわざわざ「受動喫煙症」と呼び替えなければならないのか、理解に苦しみます。
肺結核だって受動喫煙症だという認識なのです。

どうしてそうなるのか?
受動喫煙症というのは、その症状を言うものではないからです。
受動喫煙症に特徴的な症状があるのではなく、受動喫煙を原因とするものが受動喫煙症なのです。「水虫菌(白癬菌)にやられたから水虫なんだ」という感じです。
水虫には水虫に特徴的な症状がありますが、受動喫煙症にはそれはない。というより、原因が受動喫煙でさえあれば、症状はなんだっていいのでしょう。

問題はその症状を起こした原因であって、症状ではない。しかしこの原因の規定については、ある意味で厳密です。例えばまったく同様の症状で、同じくタバコ煙が原因であっても、患者が能動喫煙者であった場合、それは「受動喫煙症」ではないのです。

「非喫煙者が」「受動喫煙を原因として」その症状を引き起こした、それだけが受動喫煙症という疾患の内容です。
ならばこそ、その唯一の内容である「受動喫煙が原因」という病因の特定と病因=受動喫煙から症状に到る機序に客観的根拠がなければ、当該患者が「受動喫煙症」だとは成立しない道理です。

水虫を水虫であると証明できるのは、水虫菌が足の指の股から発見されるからであり、水虫菌と水虫の症状との関連が解明されているからなのです。
しかし受動喫煙症にはそれがない、患者の自己申告をすべて正しいとするだけです。
ならば立派な医学者の先生にご説明いただくまでもない。医者でもない裁判官でも、吹けば飛ぶよな煙福亭でも指摘できることです。
受動喫煙症には、医学的根拠はないのです。

梅田氏は「法的根拠にはならない」「医学的根拠は……」でしたが、
煙福亭はやっぱり「医学的根拠がないゆえに法的根拠にならない」で変わりません。

ところで梅田氏は「法的根拠にならない」こと、やけに堂々と宣言されますが、一体いつどこからこれを教えられたのでしょう。
僕は横浜副流煙裁判を調べるなかでこれを知りました。けれど梅田氏は横浜副流煙裁判についてはあまりご存知ないそうです(それでいて藤井氏にアホだの情報収集力がないだの罵倒していたのですが)。
彼の口振り(Twitterだから書き振り、ですが)からすると以前から知っていたかのようですが、それでは問題があります。彼はそれが根拠にならないと知りながら労働審判に証拠として提出していたことになるからです(注3)

なので常識的に考えれば、「梅田氏は労働審判に提出した受動喫煙症の診断書が効力を発揮しないのを見て、法的根拠とならないことを知った」というところでしょうか。

そうであるとしたらこれは、経験者による貴重な証言と捉えることが出来ます。
受動喫煙症を名乗る訴えはまだ(この期に及んでも)消えてはいないようなので、人によっては貴重な教訓として捉えることも出来るでしょう。

そして梅田氏はまた、受動喫煙症についてもうひとつ、重要なことを教えてくれています。

彼は自ら望んで受動喫煙症の診断書を受け取りながら(受動喫煙症は自ら望まなければ決してその診断を受けられません。何故なら患者の自己申告のみが受動喫煙症であることの根拠だからです)、「医学上根拠があるかは興味もありません」とその病気をまるで他人事のように語るのです。
「医学的根拠は全くないとも思わないし、完全とも思いません」「どの程度信じるかは人それぞれで結構」「興味はありますが関与する気はありません」

会社に出勤出来ないほどの体調不良に悩み、止むを得ず自分の勤めた会社を訴えたほどの(筈の)人ですら、自らを苦しめた「受動喫煙症」という病気についてこれほど冷淡で無関心なのです。
その診断を求め、これを受けた者ですらその医学的根拠を信じていない。こんなおかしな病気が「受動喫煙症」であり、またその患者は「診断書」を必要としているだけであって、はなから治療を問題にしない。医学的根拠があろうがなかろうが、そこは問題ではないということです。
これじゃあ司法の場で相手にされなくてもしょうがないんじゃないでしょうか。(注4)

と、ここまで書いてきて僕は、自分が梅田氏の言葉を間違って捉えていたかも知れないことに気づきました。彼の言う「法的根拠」「医学的根拠」とは単に「その専門家が認めている」という意味に過ぎなかったのかも知れません。
だったら僕が書いてきたことなど、梅田氏には何の意味もない話だったでしょう。それこそ受動喫煙症の医学的根拠など「ICD10に含まれない=医学会で認められていない」で証明できてしまいます。

もしそうだったとしたら、僕はなんだか残念に思います。

梅田氏が政治家を志すのであれば、ただ「医者がこう言ってる」「裁判官がこう言った」を鵜呑みにするのではなく、その根拠を調べ、自分で考えることを放棄して欲しくないな、と思ってしまうのです。政治家にとっても、説明責任とは重要なものですからね。


梅田なつき氏と煙福亭のTwitterでの会話は、ここから遡ってご覧ください



(注1)梅田なつき氏の労働審判

これについて書くとまた「事実とまったく違う」と言われそうですが、これを知らないとtwitterで梅田氏と藤井敦子氏に会話があった理由が分からず、またこの件について今やネットでも多くの記事が読めなくなっているので、煙福亭なりにまとめておきます。以下の文章は下記の記事からの再構成です。

弁護士ドットコムニュース 2020.11.17
https://www.bengo4.com/c_5/n_12009/
プレカリアートユニオンブログの2020 7.9と11.17及び12.11付の記事
※以上の記事は今では削除されているか、文章が大幅に削られています。ただ煙福亭は当時の記事をコピーしてあるので、これを読むことができるのです。
あ、和解したって記事だけは読むことができます。

労働審判申し立ての際のプレスリリースによると「事務所室内で喫煙による受動喫煙により咳、頭痛等の症状で休職し、環境改善を求めていたが、相手方が対策を拒否したため、復職できずにいたところ、休職期間満了により退職扱いを受けたという事案」となっています。
そこをも少し詳しく。上にあげた記事から関連事項を時系列で並べると、こうなります。
(訴えられた「相手方」をA社とします)

2017.2.   梅田氏、A社に入社
2018.7.1 1年間の育児休暇を取得

2019.7.1 職場復帰
 この間にオフィスが移転されて、台所換気扇下で社員が喫煙するようになっていた。
2019.7.5 梅田氏、会社に受動喫煙対策を求める
2019.7.10 前日夜に梅田氏は3つの対策を提示し、この日出勤時間までに回答がなかった為、休職する。
2019.7.22 受動喫煙の状況が改善しない限り就労困難との受動喫煙症診断書を提出

休職中、岡本光樹・プレカリアートユニオンを通じての改善要求を続ける。
A社はオフィス内に喫煙室を設けると提示したが、厚労省が定める基準に従うものではなかった(らしい)。

2020.2.7 休職期間満了のため自動的に退職となっている、とA社より通知
2020.11.17  梅田氏、労働審判を申し立て(代理人・増田崇弁護士)

この後(?)梅田氏、A社の前でプレカリアートユニオンの車を使った街宣活動を行う(梅田氏はプレカリアートユニオン組合員であるらしいのです)
2020.12.11 プレカリアートユニオンよりA社の取引先・関係先に向け「受動喫煙症の社員の解雇問題、労使紛争解決のための要請書」(12.11付ブログ記事)

2021.3.24 労働審判終了。「当該組合員が納得できる」和解が成ったらしい。

別のところ(Twitter)で梅田氏は横浜副流煙裁判について「こういう原告が極端な事例はあまり参考にならない」と言ってましたが、街宣車の上から訴えたり相手会社の得意先に要請書を出すなど、僕から見ればこっちも十分に「原告が極端な事例」に見えます。

僕とのTwitterの会話では、梅田氏は受動喫煙症の診断書を法的根拠にしていないと言っておられますが、プレカリアートユニオンブログの上記3記事すべてで、梅田氏の受動喫煙症は言及されています。

「受動喫煙症を患うAさんに受動喫煙を強いる」7.09記事
「受動喫煙による頭痛等の症状で休職した労働者を解雇したIT企業に労働審判申立!」
「受動喫煙症であり、受動喫煙の状況が改善しない限り就労困難との診断を受け」11.17記事
「受動喫煙症の社員の解雇問題、労使紛争解決のための要請書」12.11記事
あと梅田氏の乗った街宣車に掲げられた横断幕の文章はこうでした。
「受動喫煙症の社員に受動喫煙対策せず休職のまま解雇した〜不当解雇を撤回しろ!」

(注2)横浜副流煙裁判の判決および各資料は、ここで読むことができます。

1・2審判決文
第1審・横浜地裁判決文 第1審・横浜地裁判決文 第1審判決文・章題 第2審・東京高裁判決文 第2審・東京高裁判…
横浜・副流煙裁判・冤罪事件における裁判資料及び未公開記録の公開~事件をジャーナリズムの土俵にのせる~|note
【ジャーナリスト黒薮哲哉氏による全面取材。事件詳細《メディア黒書》⇒】【音声動画による記録⇒】【署名サイト⇒】 記録⇒藤井敦子・横浜市青葉区すすき野

(注3)もしも梅田氏が「受動喫煙症の診断書なんか根拠にならない」と以前から知っていたのだとすれば、彼にこれを教えたのは日本禁煙学会理事・岡本光樹弁護士(岡本こうき都議)である可能性が指摘できます。上に見るように岡本氏は梅田氏の訴えに協力しており、またMASH(タバコ問題首都圏協議会)及び「ニコチンなくそう日本」を通じてつながりがあったようなのです。

東京都受動喫煙防止条例の草案作成者であり、日本禁煙学会理事、受動喫煙に関わる訴えに受動喫煙症診断書を利用することを勧めている氏が、梅田氏と同様の見解だとしたら、興味深いことです。
まあそれ以前に、岡本こうき氏がプレカリアートユニオンと共闘していたことが驚きではありますが。

岡本光樹氏による「住宅におけるタバコ煙害問題」
https://note.com/atsukofujii/n/n697226c20b4e

(注4)ただし、まだその診断を受けていない人のなかには、これを信じたいと思う人=医学的根拠や治療を求める方はおられるでしょう。僕もネット上ではあるけれど、そうした人がいるのを見ました。
https://www.tabaco-manner.jp/column/6975/
彼の本気は、その質問から察せられます。曰く「(受動喫煙症と)診断されることに何か意味があるのでしょうか?」
これに対する受動喫煙撲滅機構の答えは、
「辞めずに闘えば、改善や慰謝料など、勝てる見込みはあります」でした。

ところでこの画像ですが、決して他意はございません。
好きな音楽のジャケットで記事を飾るのがこのブログのマナーってだけなのです。
けどまあただ、このジャケに伴う下らない随想を書くならば……
近頃の女装男子の写真って、ずいぶん綺麗だったり可愛かったりするけれど、その分批評性に乏しくなってるのが残念ですねえ。
いや勿論、彼らが批評性のために女装してるんじゃないと存じておりますし、また欲望に忠実に美しくなられているのは慶賀すべき事柄であるとは思ってるんですけどね。
「それ、悪意はないかも知れないけど、他意はあるよね」
……ありますね、すいません。

石野卓球のこのジャケットにつきましては、
なんかスゴいキレイな仕上がりなんだよなぁ。けどこれを卓球がやってるのが笑える……ようでしかし、困ったことに、カッコよくすら見える。しかしカッコいいとは思っても、これを部屋の目に入るとこに飾ろうとは、とてもとても思えないよ……そんな収まりの悪さこそが、このジャケットの素晴らしいとこだと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました