統計

 嫌煙家たちのTwitterを流し読むと、結構いろんな情報を簡単に拾えるので重宝する。
(心は殺伐としてきてしまうけど)
 例えばこんな感じ。

 こういうアホみたいなテーマが研究され、発表されるという事自体が、煙草をめぐるファクトやエビデンスの馬鹿馬鹿しさを象徴していると思うんだけど。
 ただ「統計」ってテーマで書いておきたいのはそういう事じゃない。
 こういう話をどっかで仕入れてきて、「タバコ吸う奴ってみんな怠け者だからさ」とか「タバコ吸う奴は向上心低くてダメだよ」とか言う人って大丈夫? という話。

 これは「黒人は頭が悪い」とか「部落の奴は金に汚い」とか言うのと同じだってことを理解して言ってるんだろうか。
 理解して言ってたらかなり危ない人だし、理解しないで言ってるとしたら現代人としてかなりマズい。

 ただTwitterやネットニュースのコメントなんかを読んでると、普通に生きてたら考えられないほど、この手の発言がポロポロ見つかってしまう。悪口で言ってる分には理解できるが、素で信じてそうな女子を見かけたりすると閉口する。
「タバコを吸う奴は低学歴・低収入」
「タバコを吸う人は味がわからない」
「タバコを吸うからモテない」
「タバコを吸う奴はウンコの臭い」
「タバコを吸う奴はニコチン依存症の病人」
あと僕はTwitterで産科のお医者様に「タバコを吸うのは精神病」と言われました。

WHOがそう言ってるから(注1)、という「エビデンス」があるらしいのですが、だからと言って?

302 Found

 僕が言いたいのは、喫煙者というのは「生物都市」(諸星大二郎のマンガ)に出てくる得体の知れない一塊の生物じゃなくって、一人一人別個の人間だというバカみたいに当たり前のことです。
 その人の学歴を、味覚を、恋愛遍歴を、精神を知らない相手に、なんでそんなことが言えるの?
「日本人はみんな十二歳の子どもだ」って言われて君は、「確かなファクトとエビデンスがあるんなら私も十二歳なんだな」と納得するんですか?
「ゆとり世代が草食男子になる相対リスクは昭和30年代生まれの14倍」とデータを示されたら、「じゃあオレ草食男子だ」って自己規定するんですか?
「あなたの信用スコアを調べたら、点数低いからサヨナラね」と恋人に言われて「それは仕方がない」と引き下がれるんですか?

 ……ん? 最後のはちょっと話ズレちゃってますか。昭和の人間だからこーゆーの全く信用できなくていけません。まあぶっちゃけ、「統計」って聞いただけでまずは疑うような人間なんですね。
 だって最初にあげたみたいな研究結果を見せられて、そのまま信じようって気にはなれないでしょう。統計って余程慎重にやらないと、すぐに恣意的なものになってしまうのです。なのにタバコの健康被害についてのエビデンス、ってものは僕の知る限り全部この統計によって成り立っています。
 もう少しちゃんとした言葉を使ってあげると「疫学」ですね。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000130674.pdf

 例えば厚生労働省がこれでもかって打ち出してくる「日本では受動喫煙が原因で年間1万5千名が死亡」ってヤツですが、コレは別に死亡診断書に「受動喫煙症」と書かれたものを集計したのではありません(というか「受動喫煙症」はあだ名みたいな病名なので、書いてあったらマズいです)。統計データから計算された推定値です。ある程度の資料をネットで探す事はできますし、あと我々素人に分かるように計算方法を説明してくれる人もいたりしますね。(ここでは名取浩氏の記事をあげます)

https://www.hws-kyokai.or.jp/images/ronbun/all/201011-3.pdf

受動喫煙による死亡者数はどうやって計算しているのか
日本において受動喫煙が原因で一年間に1万5000人が死亡しているとされている*1。もちろんこれは推定なので誤差を含む。しかし、おおよその数字としては正しい。こうした数字が話題になるたびに「どうやって計算したかわからない」という意見が出る。極端な場合には「1万5

「疾患リスクの増加の程度」という素人には耳慣れない項目。ここの数字を割り出すのが「疫学」です。統計データを採って分析するのです。
 あるグループに肺がんに罹った人が何人、タバコを吸う人が何人、その家族が何人、みたいに数を挙げて調べます。①タバコを吸って肺がんになった人と②タバコを吸わずに肺がんになった人の比率を計算します。これが「疾患リスクの増加の程度=相対リスク」と呼ばれるもの。
 相対リスクは例えば「1.4倍」などと表されます。①の数が②の1.4倍だからです(文系人間が理解したことを更に簡略化した表現です)。
「曝露割合」も耳慣れない言葉ですが、これは単純に「非喫煙者の内の受動喫煙者の割合」で、ここでは31.1%(女性の、家庭における)という数字が使われています(注2)


 つまりこの計算を言葉で簡単に表現すると、

ある病気による死者数のなかの受動喫煙者の数を割り出し、この内から、
相対リスクによって、受動喫煙原因の死亡者数を推計したもの
、となります。
(この説明だと計算手順が前後しますが。計算式に従った場合より、ちょっと数が減ります)
 もっと単純に言えば

死者数に対する受動喫煙者の割合に相対リスクを勘案したもの」です。

 なのでこれによって算出される数字は、「日本で受動喫煙により死亡した数」ではなく、「その病気の主原因が受動喫煙だと仮定したら、それ原因の死者がこれ位いてもいい、と考えられる数」ということです。(注3)


 おかしくない? 脳卒中や虚血性心疾患、これの主な原因は高血圧や動脈硬化と言われています。これに対するお医者さんの注意に「喫煙」は含まれますが、もっと重要なものとして「コレステロール過多」「塩分のとり過ぎ」「ストレス」などが挙げられている筈なのです。ましてや「受動喫煙」です。こうした計算を「試しにやってみる」のはいいでしょう。けれど厚生労働省の発表する数字として、このような計算結果を持ち出すことには明らかな政治的意図がある。
 上の円グラフを見ると、脳卒中が受動喫煙原因死亡数の50%以上を占めますが、2010年発表の受動喫煙原因死亡数には脳卒中が含まれておらず6,800人とされていました。「それじゃあインパクトが小さいから脳卒中も入れよう」と考えた、と読めるのです。

 僕がさらに質が良くないと考えるのは、ここに「SIDS=乳幼児突然死症候群」を含めた事です。73人という数字上のインパクトが低いこの病気を入れた意図は明白で、「タバコが赤ちゃんを殺す」というイメージを植え付ける事です。
 しかしそれ以前にSIDSという病気は、厚労省のガイドラインでも「なんらかの病因を有する疾患であるにもかかわらず、病理学的所見が認められない」とされているもので、このような病気の原因をタバコに求める事自体が安易で不謹慎だと僕には思えます。
 実はSIDSの死亡者数全体に対して受動喫煙原因死亡者数とされる73人は、なんとほぼ50%(!)。
 ここにはカラクリがあって、「父親の喫煙による曝露割合」が63.2%と、かなり高い数値になっているのです。何故かと言えばこの数字は「新生児の親のうち喫煙と答えたものの割合」だからです。
「バカじゃねえの?」と思います。今時、乳幼児の近くで、いや、乳幼児のいる部屋でタバコを吸うバカ親が、この63.2%のうち何%いるでしょうか。妻が妊娠したらホタル族→その後禁煙、が僕ら世代(A.D.2000で30歳)のタバコ吸いのスタンダードであって、ここ数年であればその数はさらに増えているでしょう。

疫学とは、言わば「社会統計学」です。これを宣伝目的に利用すれば、僕らのような文系一般人を簡単に惑わせる数字を導き出せるものなんですね。

 ただこんな面倒な計算を調べたり陰謀を暴き立てたりしないでも、単純にこの「日本では受動喫煙が原因で年間1万5千名が死亡」が、所詮は広告であることを理解すれば、冷静に受け止めるにこと足ります。
 例えば「日本では受動喫煙が原因で年間1万5千名が死亡」という言葉が、正しく「これら4つの病気では、年間死亡者25万8千人の内、1万5千人が受動喫煙原因で亡くなっています」と表現されていたらどうでしょう。
 ものすごくインパクトが薄れます。こんな文句を書いたコピーライターは即刻クビになるでしょう。けれどあなたは「それでも1万5千人は無視できない数字だ」というかも知れない。そこが広告の怖いところです。先に「1万5千人!」という数字のインパクトを見せられれば、後から詳しい事実を述べられても先の印象から抜け切れないのです。

 SIDSを入れたこともそうですが、はなから広告なのです。厚生労働省がどれだけ高尚な機関であっても、広告とは常にこういうもんなのです。
 だからショッキングな広告を目にした時は、それが衝撃的であればあるほど疑ってみるのが現代人のマナーです。しかし素人の悲しさ、僕もこの広告を見たときに「誇大広告だったとして、それでも1万人くらいは受動喫煙で死んでんのかな」なんて考えていました。そういうことではなかったのです。
 そもそも受動喫煙がどこまで健康被害に関係あるんだ?そもそもタバコが肺がんの原因だって話はどっから来たんだ?まで考えて調べていくと、本当にバカバカしい現実を目にします。お医者様が「タバコの煙に安全な量などない」とか真顔で言ってたりします。彼らはもしかすると、タバコの葉の一欠片を舐めた小学生に、すぐさま胃洗浄を施すのでしょうか。

僕はたったこれだけの事を調べる為に、悲しくなるほどの苦労をしました。
 広告で人を誘導するのはJTだけじゃありません。てゆーかJTだけの筈がありません。厚生労働省もWHOも、広告を出すことの方が研究したり統計とったりするより得意そうに思えます。
 僕ら悲しき一般人が、ものを知る事は大変なのです。

(注1)
 WHOの「ICD−10」つまり「疫病及び関連保健問題の国際統計分類」ですね。これの第5章「精神障害および行動障害」の「精神活性物質の使用による精神障害および行動障害」F17に「タバコの使用による精神障害および行動障害」とあります。ざっくり言うと「タバコを吸うのは依存症だから精神病だ」って書いてあります。そんだけかよ!
 だってアルコールについては「せん妄を伴う離脱状態」「精神障害(幻覚・嫉妬・パラノイア)」「健忘症候群」「残存および遅発性精神病性障害」など並べ立てられてんですよ。でもタバコを吸ってもそんな「如何にも精神病」って劇的な症状が現れない。ただ「依存症」って項目には当てはまるから、ここに入れときさえすりゃあ件のお医者様の脅し文句みたいに使えるってだけの話でしょ。厚労省もつかってることだし。って話です。

(注2)
 勿論アンケートによって受動喫煙者数を割り出すのですね。僕なんかはこれを「受動喫煙者が受ける煙の『曝露量』を、能動喫煙者のそれと比べた割合」だと勘違いしてました。だって「曝露割合」なんてカッコいい字面を見たら、難しい言葉だと思っちゃうじゃないですか。
 例えば2017年のMedical Tribuneの記事で「受動喫煙の曝露割合が最も高かったのは飲食店で、62%!」みたいに煽ってますけど、これつまり「非喫煙者の62%が禁煙席以外で飲食したことがあると答えた」ってだけですよね。場合によっちゃ「禁煙席に座っても副流煙が流れ込んできた」って人まで入ってるかも知れない。そういう普通の数字を「Medical Tribune」で見出しに持ってくるって事は、医者も僕と同じ勘違いをしてる人が多いってコトじゃないの?
 あと、これ。上にある2010年「6800人」の解説なんだけど

https://www.ncc.go.jp/jp/topics/2010/20101021_tobacco.pdf

5年前=2005年の報告書にある曝露割合をデータとして使っておきながら「1990年の曝露割合より数値が低いから過小評価かも知れない」なんて言ってますが、世の中の流れを考えたら10%やそこら下がってて当然じゃねえか!と考えてしまいます。で、更に「年間1万5千人」を計算した曝露割合の根拠を探ってみたら……「2005年の報告書とまんま同じ数字じゃないかよなめてんのかよ!」って思ってしまいます。

(注3)
 それにしちゃあ少ない、と思われるかも知れません。脳卒中死亡者全体数に対して受動喫煙原因の死亡者の割合は7%ほどになるんですから(肺がんだと3〜4%ほど)。
 これは相対リスク1.3とすると受動喫煙原因の死亡率が(3/10+3=)23%になって、曝露割合30%をかけると7%になってしまうからです。だからリンクした記事で名取先生は「受動喫煙者の肺がん死の全てが受動喫煙原因ではないなんて十分わかった上での計算だ」と胸を張ってるのですね。
 だから「脳卒中死の主原因を受動喫煙だと考えてよろしい」という前提に立てば、この数字には説得力がある(*)。逆に「脳卒中死の主原因を受動喫煙に求めるのはおかしくない?」と考えたら、そもそもの計算意義が失われてしまう、というのが僕の言ってることです。
(*)表現を間違えました。説得力があるのはこの数字ではなく計算方法に限ります。というのは、ここで基準として使われている数値が古いからです。「曝露割合」が上に書いたように2005年以前のデータで、「相対リスク」算出に使われたデータも前世紀中に完結した調査がほとんどなのです。2000年から2018年までで男性喫煙率はほぼ半減していて、全体喫煙率は17.8%。これでは新たなコホート研究で成果を上げることがほとんど無理なんでしょう。




 ああ超苦労した!そもそも「曝露割合がなにか」とかを理解する為にメチャクチャ資料探し回ったんだよ!ここに挙げたものの何十倍の資料を行ったり来たりしてようやく理解した。まさかそれが「非喫煙者の内の受動喫煙者の割合」なんて簡単なもんだなんて!
 ああけど、根っからの文系人間なんで、説明が下手、或いは全然間違ってるかも知れません。その点指摘してくれる人を求めます。

統計→とけい→タイマー……という訳です。
かなり疲れてます。
けどまあジャケ写がタバコの吸い殻ぽくていいですよね。
ホントは大麻ですけど。

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