横浜副流煙裁判から名古屋ベランダ喫煙裁判を見直す

 横浜副流煙裁判の控訴審は、初公判が8月20日に行われ即日結審しました。
 判決は10月29日。
 控訴審は元より、第一審の判決が正当であったか、またはその判決を変える意味を持つ新証拠があれば、これを審議するものです。
 僕はこの公判を傍聴したのですが、法廷での審議らしきものは行われないままに結審となりました。すなわち、控訴審判決は第一審の判決を踏襲したものになるのでしょう。
 マンションの自室内での喫煙が、斜め上の部屋の住人に健康被害を与えたものとして訴えが起こされた「横浜副流煙裁判」ですが、僕はここでもうひとつのタバコ裁判について、考えてみたいのです。

 いわゆる「名古屋ベランダ喫煙裁判」です。
 平成24(2012)年12月13日名古屋地方裁判所で判決が下されました。

 この判決文が、ある弁護士のブログに全文紹介さています。実に有難い事で、この判決文を横浜副流煙裁判の第一審判決と見比べてみましょう。

下にリンクを示してありますので、是非この原文をお読みになった上で、僕の文章を批判的に検証してみて下さい。横浜副流煙裁判の判決文もリンクで示してありますし、判決文が読み易いように、その章題を整理しておきました。

 なぜこの2つの裁判を比較検証するのか。それは横浜副流煙裁判に提出された甲第31号証「住宅におけるタバコ煙害問題(担当:岡本光樹)注1」において、名古屋ベランダ喫煙裁判が大きく取り上げられており、この判決文が後のいわゆる「タバコ裁判」に影響するものと考えられているからです。

 さてでは、「名古屋ベランダ喫煙裁判」の概要を見ていきます。
 まずは判決文にある「請求」と判決「主文」。そして判決文から僕=煙福亭が作成した簡単なタイムテーブルを。

請求
1 被告は、原告に対し、150万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
主文
1 被告は、原告に対し、5万円及びこれに対する平成23年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、これを10分してその1を被告の、その余を原告の負担とする。
3 この判決は、仮に執行することができる。

平成22年
4月頃 この頃から原告はタバコの煙が入ってくるのを感じる。
    被告の喫煙を近隣住民から聞き、自分でもベランダから覗いて確認。
5/1 原告が帯状疱疹と診断される。
5/2 原告が手紙で、被告にベランダでの喫煙停止を求める。
6月  被告が再就職(前年9月に前職を辞めていた)

平成23年
4月  被告がベランダで喫煙していたところに直接、家の中で吸うことを求める。被告は、原告の騒音について苦情を言い「お互い様」を主張。
8/3 原告の娘が被告に電話。ベランダでの喫煙をやめるよう求める。
     被告はこの時からベランダで喫煙していないと主張している。
9/1 原告が弁護士に相談。煙を感じた時間のメモを始める。
9/8 原告が、煙を防ぐための工夫を始める
9/19 原告は、この時から被告がベランダでの喫煙をやめたと考え、メモを止める。
    この後、原告はうつ状態と診断される。
平成24年
12/13  判決

さてこの裁判での訴えの内容はなにか。「事案の概要」にはこう書いてあります。

本件は,原告が,同じマンション内の自己の居室の真下に居住する被告が,被告の居室ベランダで喫煙を継続していることにより,原告の居室ベランダ及び居室室内にタバコの煙が流れ込んだために体調を悪化させ,精神的肉体的損害を受けたとして,被告に対して,不法行為に基づく損害の賠償を請求する事案である。

けれど「当裁判所の判断」により「認定事実」とされたものは、これとは少し異なっています。

原告は,過去に小児喘息に罹患したことがあることから,タバコの煙に対して恐怖感があった。

原告は,同年5月1日に医療機関を受診して,帯状疱疹と診断され,その原因がストレスにあると言われた

「裁判所の判断」は原告側の主張のうち「肉体的」損害を排除し、「精神的」損害のみに争点を絞っていることが分かります。
「争点(2)(原告の損害)について」を読めば、それはより明らかでしょう。

原告は,タバコの煙について嫌悪感を有し,重ねて被告にベランダでの喫煙をやめるよう申し入れているところ,被告が,原告の申し入れにもかかわらず,ベランダでの喫煙を継続したことにより,原告に精神的損害が生じたことは容易に認められる。

 とした後に「原告においても,近隣のタバコの煙が流入することについて,ある程度は受忍すべき義務があるといえる。」と述べ、以下のように結論しているのです。

 これらを総合考慮すると,被告のベランダでの喫煙により原告に生じた精神的損害を慰謝するには,5万円をもって相当と認める。

 つまり裁判所の判断として、被告の喫煙により原告に「肉体的損害」があったとは認めていない。と言うより、争点から外されています。これはそもそも「帯状疱疹」といい「うつ状態」といい、タバコ煙がこれを引き起こしたとは言えない、提出された診断書によってもこの証明は出来ないからでしょう。
 判決文では、以下の説明が為されています。

原告は,被告がベランダでの喫煙を継続したことにより,原告は多大なストレスを感じ,帯状疱疹を発症し,また,不眠や動悸,うつ状態になる等して精神的に追い込まれたと主張し,診断書(甲1ないし3)を提出する。しかし,受動喫煙によるストレスが直ちに帯状疱疹を発症させるものとはいえず,被告が,不眠や動悸を訴えてうつ状態と診断されたのは,被告のベランダでの喫煙がやんだ平成23年9月19日よりも後であり,したがって,これらが被告のベランダでの喫煙により生じたものとまでは認められない。

この裁判の話としては前後しますが、それでも5万円の賠償金が認められたのは「喫煙が不法行為を構成することがあり得るといえる」から。これが「争点(1)」のテーマとなります。

他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら,喫煙を継続し,何らこれを防止する措置をとらない場合には,喫煙が不法行為を構成することがあり得るといえる。

平成23年5月以降,被告が,原告に対する配慮をすることなく,自室のベランダで喫煙を継続する行為は,原告に対する不法行為になるものということができる。

そしてこの前提となっているのが、下の認識です。

タバコの煙が喫煙者のみならず,その周辺で煙を吸い込む者の健康にも悪影響を及ぼす恐れのあること,一般にタバコの煙を嫌う者が多くいることは,いずれも公知の事実である。

以上を鑑みて、名古屋ベランダ喫煙裁判の判決を要約してみます

●原告はタバコの煙に対して恐怖感があった。
●被告によるマンション直下のベランダでの喫煙、そこから流入するタバコ煙にストレスを感じていた。
●被告にベランダでの喫煙停止を求めたが、受け入れられなかった。
●タバコの煙が健康に悪影響を及ぼす恐れがあること、タバコを嫌う者がいるのは周知の事実である。
●故に原告の申し入れには正当性があり、この申し入れにもかかわらずベランダでの喫煙を継続し、原告に精神的損害を与えたことは不法行為になるものということができる。
●他方、原告においても近隣のタバコ煙の流入を、ある程度は受忍すべき義務があるといえる。
●ゆえに原告に生じた精神的損害を慰謝するためには、5万円をもって相当と認める。

ですね。

 けれどこの裁判が、原告の勝訴に終わったとは言えません。
 請求150万円に対し、判決はたった5万円。
 また訴訟費用については、9割が原告の負担とされているのです

 訴訟費用(ここには弁護士費用は含まれない注2)は原則、敗訴者が負担することになります。ただし「一部認容」の場合には裁判所の裁量で決められる。この結果が、原告の9割負担なのですから。

 もう一度言います。名古屋ベランダ喫煙裁判は、原告の勝訴に終わったとは言えません。
 ただ判決文に以下の一文があることが、日本禁煙学会など禁煙推進派に評価されることとなったのでしょう。

被告が,原告に対する配慮をすることなく,自室のベランダで喫煙を継続する行為は,原告に対する不法行為になるものということができる。


 では一方の、「横浜副流煙裁判」について見てみましょう。

 ここでも争点(1)と(2)があり、(1)が不法行為の有無、(2)が損害額となっています。

 横浜副流煙裁判では(2)の損害額について裁判所の判断は存在しません(棄却、ですからね)。なので見ておきたいのは、争点(1)不法行為の有無についてです。横浜副流煙裁判ではこれを4つに細分しています。

①被告宅からの喫煙による排煙量
②原告らに原告らの主張する症状が発生しているか
③疫病の機序
④被告の喫煙との因果関係

 この4点です。
 これらについての裁判所の判断を簡単にまとめると

①原告ら宅の室内に流入した副流煙は微量にとどまったものと推認される。
②原告らについて、体調不良ないし様々な健康影響といった症状が存在したことが認められる。
③化学物質過敏症の発生機序は未解明。受動喫煙症は診断に客観的裏付けを欠いている。
④全証拠によっても、原告らの体調不良ないし健康影響がタバコの副流煙によって生じたと認めることはできない。

と、なります。

これを踏まえて、こう「結論」されています。

以上によれば、原告らの請求は、その他の争点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却すべきである。

 請求棄却。つまり原告らにとっては、完全敗訴に終わっています。

 これを参考に、名古屋ベランダ喫煙裁判を見直してみましょう。
 名古屋ベランダ喫煙裁判では、

①について
被告就業時の平日午前の5時間弱の間に5、6本であって、祝祭日などではこれを大きく上回るものと推認されることからすると、原告の室内に入るタバコの煙は、少ないとは言えない。
②については、裁判所の確たる判断が見受けられません。
③については、受動喫煙によるストレスが直ちに帯状疱疹を発症させるものとはいえず、うつ状態と診断されたのは、ベランダでの喫煙により生じたものとまでは認められない。とされています。これは同時に④に対する答えでもあり、また②について判断がないことの理由でもある。

 補足説明をすると、帯状疱疹の直接的原因は水痘ウイルスです。水疱瘡が発症・治癒した後も体内に残るウイルスが、免疫力の低下により再活性するものです。免疫力の低下は加齢の他、ストレスによることがある。ただしこれをもって「受動喫煙によるストレスが帯状疱疹を発症させた」とは言い難い、というのが裁判所の判断だったのですね。

つまり名古屋ベランダ裁判においても、原告の主張する健康被害とタバコ煙の因果関係は認められていない。実は名古屋ベランダ喫煙裁判の判決においては、②から④は争点(1)及び(2)を争う問題とはされていないのです。

しかし問題とされていないことが問題である、と僕が考えるのは、そうすると上に挙げた「タバコの煙が喫煙者のみならず,その周辺で煙を吸い込む者の健康にも悪影響を及ぼす恐れのあること(中略)は,いずれも公知の事実である。」の文言が、宙に浮く形なってしまうからです。

 何故、原告の健康被害を問題としないにも拘らず、この文言が必要とされたのか。
 それは「恐れ」にあると考えられます。

 原告のタバコ煙に対する「恐れ」がストレスとなり、原告に精神的損害を生じさせた。こう話をつなげるための補完的役割を、上の文言は担っているのでしょう。
 しかしこの文言だけを抜き出した場合には「司法が、受動喫煙が健康に悪影響を及ぼすことを認めた」と読めてしまうのです。

 僕はこの「名古屋ベランダ喫煙裁判」の判決文を、高く評価することができません。
 それは「ベランダでの喫煙が不法行為になり得る」としたことではなく、判決に至る論理が脆弱で、諸所の判断について根拠が不明瞭であるためです。

諸所の判断①
 判決文は被告のベランダでの喫煙が不法行為に当たる、その期間を平成23年5月以降、同年9月19日までの役4ヶ月半程度であるとする。
 この9月19日は、原告がタバコ煙を感知した時間のメモを止めたことから、その後の喫煙について客観的証拠がない、としているのです。
 ただし被告の主張では、原告の娘から電話で要請を受けた8月3日以降、ベランダでは喫煙していない、とあります。
 つまり裁判官は原告の主張を取り、被告の主張を退けている。その判断理由が僕には不明瞭と思われます。曰く
「(これまでの要請にもベランダ喫煙を止めなかったことを挙げ)そうであるのに,その電話を終えてから,自発的にベランダでの喫煙をやめたというのは,にわかに信じ難い。」

 しかし9月19日に被告がベランダ喫煙を止めたのは、かつて被告に苦情を言った同マンション住人(原告の隣室)が帰宅したからだと言うのです。
 この二つの事情に大した違いがあるようには思えません。しかし判決は「原告がそう言うんだからそうなのだ」と言わんばかりの判断を下します。

 原告は、弁護士の助言により9月1日からタバコ煙に気付いた時刻のメモをとるのですが、ここには「被告が勤務のために自室にいないことが明らかな時間帯も一部含まれている」が、「一部の不一致をもって、原告の述べるところを、全部信用できないとまでいうことはできない」としています。

 また9月8日より原告は「自室のベランダにビニールシートを張り、窓の外に毛布をかける等したほか、扇風機(3台)や空気清浄器(2台)を置いて」という、些か常軌を逸した防衛に「効果がなかった」という証言も採用したその上で、「以上を総合考慮すると、平成23年8月3日以降、ベランダで喫煙していないとの被告の主張は認めることができない。」とする。

 どうも判断が、偏っているように見えませんか?

諸所の判断②
被告の喫煙により原告の室内に入るタバコの煙は,少ないとは言えない。」と判断されるその量とは「平成22年6月以降の平日午前の5時間弱の間に5,6本であって,祝祭日,あるいは,平成22年5月以前の被告が職に就いていない時期には,これを大きく上回るものと推認される」です。
 その肝心な「大きく上回る量」が示されていません。あくまで「推認」なのです。
 また①で触れたように、判決文は不法行為の期間を平成23年5月からとしておきながら、これ以前の喫煙量にまで言及している。

 やっぱりどこかおかしい。

 そして、論理の脆弱さ、です。
 両裁判に共通する問題として「自宅での喫煙が不法行為を構成するか」がありますが、この基礎となる認識をそれぞれ見てみましょう。

横浜副流煙裁判
「本来、自宅内での喫煙は自由であって、多少の副流煙が外部に漏れたとしても、それが社会的相当性を逸脱するほど大量であるなどといった特段の事情がない限り、原則として違法とはならないと解すべきである。」

名古屋ベランダ喫煙裁判
「自己の所有建物内であっても,いかなる行為も許されるというものではなく,当該行為が,第三者に著しい不利益を及ぼす場合には,制限が加えられることがあるのはやむを得ない。そして,喫煙は個人の趣味であって本来個人の自由に委ねられる行為であるものの,タバコの煙が喫煙者のみならず,その周辺で煙を吸い込む者の健康にも悪影響を及ぼす恐れのあること,一般にタバコの煙を嫌う者が多くいることは,いずれも公知の事実である。」
「他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら,喫煙を継続し,何らこれを防止する措置をとらない場合には,喫煙が不法行為を構成することがあり得るといえる。」

これは一見、名古屋ベランダ喫煙裁判の方が、事態に踏み込んで問題を捉えているように見えます。けれど上に述べたように「公知の事実」のうち「その周辺で煙を吸い込む者の健康にも悪影響を及ぼす」は、争点の外に置かれている。つまり、判決に影響を与えた「公知の事実」は「一般にタバコ煙を嫌う者が多くいる」の方です。

となると、「著しい不利益」とは、「タバコ煙を嫌う者にタバコ煙を感知させた」ことにしかなりません。
 そしてこれは僕個人の常識ですが、一般にタバコを吸う者は、人に嫌がらせをするためにタバコを吸うわけではないのです。

といった問題を踏まえて、名古屋ベランダ喫煙裁判の「結論」直前の章、「争点(2)(原告の損害)について」の全文を読んでみて下さい。

 上記1に認定したとおり,原告は,タバコの煙について嫌悪感を有し,重ねて被告にベランダでの喫煙をやめるよう申し入れているところ,被告が,原告の申し入れにもかかわらず,ベランダでの喫煙を継続したことにより,原告に精神的損害が生じたことは容易に認められる。
 しかし,上記1で認定した事実によれば,平成23年5月以降,被告がベランダで喫煙をしていたことが認められるのは,同年9月19日ころまでの約4か月半程度であり,その間も,平日の日中は概ね午前中に限られていることが認められる。他方,被告がベランダでの喫煙をやめて,自室内部で喫煙をしていた場合でも,開口部や換気扇等から階上にタバコの煙が上がることを完全に防止することはできず,互いの住居が近接しているマンションに居住しているという特殊性から,そもそも,原告においても,近隣のタバコの煙が流入することについて,ある程度は受忍すべき義務があるといえる。
 これらを総合考慮すると,被告のベランダでの喫煙により原告に生じた精神的損害を慰謝するには,5万円をもって相当と認める。

 僕はここで名古屋ベランダ喫煙裁判の判決文に対して批判的に書いてきましたが、この文章を読んだ印象としては、「曖昧な、決して客観的とは言えない証拠を元に苦心惨憺して編み出した判決」となります。

 なんと言っても「自宅での喫煙」です。客観的証拠を用意することが難しい。監視カメラが見張っている訳でなく、職場などのように複数の客観的な証言が得られる筈がない。また原告がストレスを感じたと言っても、その主張する疾患が受動喫煙によるものだと言える指標が存在しないのです。論理が脆弱で根拠が不明瞭なのを、裁判官の問題に帰するのは、気の毒というものでしょう。

 結局のところ、僕に言わせれば、名古屋ベランダ喫煙裁判の判決は、多くの意味において、中途半端なのです。到底、審議が尽くされているとは言い難い。いやそもそもが、審議を尽くすほどの明確な証拠や証言が得られない訴えであったのです。

こんなしょぼくれた結論のために、ずい分長々と書き連ねてしまいました。ここまで読んで下さった方にはお詫び申し上げたい気分ですが、「論理が脆弱で根拠が不明瞭」を示すには、ダラダラした長話を読んでいただく他ない、という事情もあるのです。ご容赦願いたいところなのです。


 さて翻って、横浜副流煙裁判の第一審判決を見てみましょう。
 こちらでは原告の健康被害について、多くの証拠=根拠が示されています。
 まず「受動喫煙症」「化学物質過敏症」の診断書が用意され、その診断書や裁判資料において専門医が「被告の喫煙によるタバコ煙が原因」としています。
 他にも「風向きが一年中ほぼ西から東に流れる」や、訴額についても「後遺障害等級第2級に該当する」と金額の根拠を示している。かなり周到とも言える訴えになっているのです……が。
 判決ではこれが尽く否定されることになります。頼みであるはずの受動喫煙症・化学物質過敏症の診断書に対しては、

原告らに受動喫煙があったか否か、あるいは、仮に受動喫煙があったとしても、原告らの体調不良との間に相当因果関係が認められるか否かは、その診断の存在のみによって、認定することはできないと言わざるを得ない。」と、バッサリです。

 風向きの件については「風向きが一年中一定であるなどというその主張自体不自然であるし、これを裏付ける証拠もない」と、またバッサリ。
「後遺障害等級」云々については、損害額がすでに問題とされなかったのですが、仮に問題とされていたら、これも根拠のなさを指摘されるのがオチだったでしょう。(注3

 僕の印象で言えば、原告は無闇矢鱈に証拠らしきものを捻り出し過ぎているのです。その無闇矢鱈が全ての証拠を嘘に見せてしまう。判決から振り返り、また名古屋ベランダ喫煙裁判を参照してみれば、受動喫煙症の診断書なんて無い方がマシだったとすら思えてしまいます。

 ですがこれ以降、受動喫煙に関わる裁判は横浜副流煙裁判を判例としない訳にはいかなくなるでしょう。受動喫煙による健康被害を訴えるのであれば、相当の証拠が提出されなければならない。しかし受動喫煙症・化学物質過敏症の診断書では、この証拠にならない。ならばこれに替わる、これ以上の証拠を出すことができなければ、今後受動喫煙の被害で裁判に勝つことは難しいのではないでしょうか。


名古屋ベランダ喫煙裁判 判決文
https://www.trkm.co.jp/kenkou/15110501.htm

 判決文の章題
主文(1〜3)
事実及び理由
 第1 請求(1〜2)
 第2 事案の概要等
 1 事案の概要
 2 前提事実
  (1)当事者等(ア〜ウ)
  (2)紛争に至る経緯
 3 争点及びこれに対する当事者の主張
  (1)ベランダでの喫煙が不法行為となるか(略)
    原告の主張(ア〜イ)
    被告の主張 ア(ア)〜(キ)、イ、ウ
  (2) 原告の損害
      (原告の主張)
      (被告の認否)
 第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
  (1) 〜以下の事実を認めることができる。
     (ア〜ク)
  (2)事実認定の補足説明(ア〜イ)
 2 争点(1)について(1)〜(3)
 3 争点(2)について
 4 結論


横浜副流煙裁判 判決文
https://note.com/atsukofujii/n/n1e4b85ec940d

 判決文の章題
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
   2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
 第1 請求(1〜2)
 第2 事案の概要
  1 前提事実
  (1)当事者等(ア〜イ)
  (2)原告らと被告宅との位置関係
  (3)原告らが「受動喫煙証」「化学物質過敏症」などと診断されたこと(ア〜ウ)
  2 争点
  (1)不法行為の有無(4点)
  (2)損害額
  3 争点に関する当事者の主張
  (1)争点①に関する主張
      (原告らの主張)ア〜エ
      (被告の認否)ア〜ウ
  (2)争点②に関する主張
      (原告らの主張)ア〜ウ
      (被告の主張)
 第3 争点に対する判断
  1 認定事実
  証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
  (1)原告ら宅、被告宅の間取り等(ア〜イ)
  (2)被告の喫煙歴、喫煙量、喫煙場所等(ア〜イ)
  (3)原告らの受診及びその結果等(ア〜ウ)
  (4)「受動喫煙証」「化学物質過敏症」について
     (ア〜イ)
  2 争点①について
  (1)
  (2)……被告の喫煙を原因として、原告らに健康被害を生じたと認定できるかどうか、以下検討する。(ア〜エ)
  (3)……不法行為に該当するとは認められない。
 第4 結論

横浜副流煙裁判については、被告人の妻・藤井敦子氏、そしてジャーナリスト・黒薮哲哉氏が多くの資料を上げ、報告しておられます。是非ご確認ください。

横浜・副流煙裁判・冤罪事件における裁判資料及び未公開記録の公開~事件をジャーナリズムの土俵にのせる~|note
【ジャーナリスト黒薮哲哉氏による全面取材。事件詳細《メディア黒書》⇒】【音声動画による記録⇒】【署名サイト⇒】 記録⇒藤井敦子・横浜市青葉区すすき野
横浜・副流煙裁判 | MEDIA KOKUSYO
既存のメディアが取り上げないテーマを重視したサイト。具体的には新聞社の押し紙問題や折込広告の水増し問題をはじめ、携帯電話基地局の電磁波による健康被害の実態などを記事にしている。また、新自由主義、司法制度につていの論考も多い。
あなたの声がチカラになります
禁煙ファシズム・訴権(そけん)の濫用にNO!横浜副流煙裁判・冤罪事件を犯した医師法20条違反の作田学医師および日本禁煙学会の責任を問う!

またこのブログでも、過去に取り上げています。ご参照ください。



(注1)
https://note.com/atsukofujii/n/n697226c20b4e

(注2)
訴訟費用のうち裁判所に納める手数料は、民事訴訟では訴額によって決まります。「名古屋ベランダ喫煙裁判」の場合は訴額150万円なので、13000円。これに書類作成費用や旅費・日当などが含まれ、「訴訟費用」とされます。

(注3)
「後遺障害等級」は損害保険料算出のための基準です。資格を持った医師の診断書を元に損害保険料率算出機構傘下の自賠責損害調査事務所が保険料率を算出します。おそらく「受動喫煙症」でこの等級が認定されたことはない筈なので、まずは診断書を用意するところからして難しいでしょう。
 また「風向き」の件ですが、原告は第一審では写真までつけて「一年中ほぼ西から東」を主張していたのですが、一審判決を受けての控訴理由書では「生活実感として概ね西から東」などと表現を変えています。これが証拠能力をもつとは、僕には到底考えられません。

https://www.trkm.co.jp/kenkou/index.html?10

 名古屋ベランダ喫煙裁判の判決文を全文紹介してくれている小松亀一弁護士のブログ。
「私が裁判官だったら請求額150万円全額認容するのですが、5万円しか認定していないのが残念なところです(^^;)」とか、ムカつくコメントを寄せておられるのですが、健康について色々書いておられるのは興味深いです。
 早くから禁煙運動に取り組まれ、健康には並ならぬ注意を払っておられるのに、コレステロール過多や高血圧、腰痛、白内障など、多くの健康問題に悩まれているようで、人生とはままならないものだ、という真実を教えてくれます。
 当たり前の話ですが、タバコを吸わなければ健康でいられるほど、人生は単純ではないのですね。

デューク・エリントン1966年録音のアルバム『極東組曲』。
この1曲目が「Tourist Point of View」、この記事のURLタイトルを「point of view」にしたので、アイキャッチもこのアルバムにしただけです。
けどこれは紛れもなくエリントンの最高傑作の1つだと思ってます。
フリー・ジャズが全盛で、ポピュラー界ではビートルズやビーチボーイズがプログレッシブなロックを展開していたこの時期にエリントンは、どこを聴いてもエリントン・ミュージックでしかない、しかしジャズを大きくはみ出したこんな音楽をつくっていたんですね。

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