[閑話]子どもたちを

 2018年6月の「受動喫煙防止条例」可決より以前、2017年10月に、東京都では「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」が成立しました。これは罰則規定なしの啓発・努力義務を示した条例ではあるんですが、将来的には罰則規定を定めることも視野に入れている、という恐ろしい話があります。
 というか、とっくに視野には入っていて、法案として準備されてもいたのです。

 豊島区の子どもを受動喫煙から守る条例(案)」です。

第九条に
継続的に受動喫煙を受けていると疑われる子どもを発見した者は、これを区または保健所、もしくは子ども家庭支援センターに通報することができる」という規定があり、

保健所と家庭支援センターは関係機関などと連携し、当該保護者または当該喫煙者に子どもの受動喫煙の再発防止のための指導または助言(禁煙治療の勧奨を含む)、その他の支援を行うことができる」としています。

 ただこれは「案」どまりで、2017年のパブリックコメント(意見公募)の結果、総数323件のうち88.5%の反対に会い、条例案の提出が見送られることになりました。

 そりゃそうだよね?
 何を考えてるんだか分かりません。

 彼らはこの法案が「監視・密告」社会の形成を促すものだってこと、ちゃんと理解してるんでしょうか。しかし千葉市においては現実にこの4月から、受動喫煙防止条例の違反者をLINEで通報できるようにしています。ホント彼らはこれからの社会を一体、どうしようと考えているんでしょうか。
 その上「子供を守る条例」に、豊島区の条例案にある「通報→指導・支援」が適用されるとどうなるか。家庭と子どもの問題に関わる為、事態はより深刻です。

 この法案を書いた人は、保健所や家庭支援センターの職員を喫煙する親のところに出向かせて、どうさせようって言うんでしょうか。親が指導に従わなければ、罰金を支払うことを拒否したら、どうするんですか?
禁煙しなけりゃ子どもと一緒に暮らせません。親権を失いますよ」とでも言わせるつもりなんでしょうか。子どもを支援するという名目で、煙草を吸う親から子どもを引き離し、施設にでも預けさせるつもりなんでしょうか。
 想像力とか責任感とか、どっかに置き忘れてきちゃったんですか?

 どうなんだ、岡本光樹。

「私個人としては、今回の条例案作成以前に東京都医師会案や豊島区条例案として、義務ではない通報制や行政による指導を含んだ内容の条例案の作成に関与しましたが、それらも法的妥当性を有すると考えています」

https://ironna.jp/article/7826?p=1



 ルー・リードが1973年に発表した『ベルリン』というアルバムがあります。一人の青年と、場末のショーガールの悲恋を描いたストーリー仕立てのアルバムなのですが、クライマックスは「THE KIDS」と言う曲で、ヒロインが子どもを(おそらくは公的機関に)奪われてしまう場面です。

 They’re taking her children away
 Because they said she was not a good mother
 They’re taking her children away
   Because of the things that they heard she has done
(彼らは彼女から子供たちを奪い去った、彼女が良い母親ではないからと
 彼らは子供たちを彼女から引き離した、彼女の行いが良くないと聞いたから)

 曲のアウトロに、ふしだらな母親と引き離されながら母親を呼び、泣き叫ぶ子どもたちの声がかぶさります。設定としては使い古されたようなメロドラマでも、子どもたちの泣き声は、それが個々人にとってどれだけ悲痛なことかを訴えかけてきます。

「子どもが育つ環境に配慮すべき」はいいですが、「自分達がよくないと考える親は排除すべき」と考えるのは、優しさですか。独善ですか。子ども達の泣き声は、何を悲しみ、誰を恨むものなのか。

 岡本光樹でも小池百合子でもいいけれど、彼らにその声は届かないんでしょうね。




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岡本光樹の日本禁煙学会誌への寄稿

http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/journal/gakkaisi_181212_49.pdf

ルー・リードの傑作の一つに数えられるアルバム。
映画で見た1920年代のベルリンの雰囲気を、音楽で表現できてるのがスゴい。

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