タバコのコストは何兆円? の(注7)と(注8)

この記事は、前の記事『タバコのコストは何兆円?』につけられるべき(注)です。
前の記事でかなりわかりにくい文章を書いてしまって、しかしちゃんと説明するには話が長くなってしまうからです。

ということで、すいません。
まずは(注7)です。

(注7)

「それらの疫学研究は『タバコの害は明らかなのだからタバコの害だけを独立して測れるという仮定のもとに計算してもよい』という前提に立った上でなければ成立しない」
と書きましたが、伝わりづらい文章だったと思います。
じゃあどう説明すればいいか。
そこで別の疫学研究『受動喫煙起因死亡数の推計』を例に挙げてみます。
例の「受動喫煙で年間1万5千人が死亡」というヤツです。

『受動喫煙と肺がんについての包括的評価および受動喫煙起因死亡数の推計』2015
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/25303

これの計算ですが、こうなっています。

受動喫煙起因死亡数の計算方法
「タバコと疾患の因果関係レベル1」にあたる4つの病気
(肺がん、虚血性心疾患、脳卒中、S I D S)について、
それぞれの死亡者数に、「受動喫煙人口寄与危険割合」を乗じます。
男女毎、また受動喫煙環境ごと(家庭と職場)にこれを計算し、
(S I D Sについては、「家庭と職場」ではなく、父親と母親)
計算結果を足し合わせます。

「受動喫煙の人口寄与危険割合」は、
死亡者数に能動喫煙率と相対リスク、
受動喫煙暴露割合と受動喫煙の相対リスクを使って算出します。
こういう計算式です。

(1)能動喫煙人口寄与危険割合
   PAFa=1ー{1/1+Pa(RRa-1)}
(2)非喫煙者群における受動喫煙人口寄与危険割合
   PAFp,ns=1ー{1/1+Pp,ns(RRp,ns-1)
(3)受動喫煙人口寄与危険割合(対象集団全体における)
   PAFp=PAFp,ns ×(1ーPAFa)×(1ーPa)

ああ文章で説明するのは難しい。まったく伝わってる気がしない。
なので図①に全体のイメージを、図②に項目毎の「受動喫煙の人口寄与危険割合」と「受動喫煙原因死亡数」の計算方法を示します。

図①

図②

さてこの計算とデータには様々問題点があるのですが、それをさて置いて、
ここで言いたいのは、
こうして算出された「受動喫煙起因死亡数」が、あくまで「最大推定数」であることです。
何故ならこの死亡数の計算は「4つの病気による死亡の原因を『喫煙』のみに限定した仮想条件における推計」だからです。
もし仮に、喫煙を含む全ての病因が指摘でき、かつ全ての病因について相対リスク、暴露割合などのデータが揃っているとします。
この全ての原因について受動喫煙原因と同じ計算をしたら、どうなるでしょう。
確実に言えるのは、それらの「〇〇原因死亡数」の全てを足し合わせれば、その推計人数は、これらの病気による実際の死亡数を大きく超えてしまうということです。
そうして大きく膨れ上がった推計数を現実の数字に適合させるならば、数々の原因のなかで「受動喫煙起因死亡数」は大きく減少されざるを得ないでしょう。
またこれら全てを並列させた上で交絡因子の調整を行うならば、「受動喫煙起因」というものは様々な要因のなかに見失われてしまっても不思議じゃありません。
最大推定数である「1万5千人」ですら、4つの病気による死亡数26万2千人(2014年)の5.7%に過ぎないんですからね。

つまり五十嵐中の言う「分析すべき事柄が埋没してしまう」状態が、これです。
これを避けるためにこそ「タバコの害だけを独立して測れるという仮定のもとに」計算したその結果が「受動喫煙起因死亡数1万5千人」であり「タバコの経済損失2兆500億円」なのであり、この前提条件のもと、これらの計算結果が得られたことを忘れちゃあいけません。

かつてお医者さんか誰かが、「病院に喫煙所があってもいい。ただし喫煙者のなかに受動喫煙の害を認めない者が一人でもいる限り、それは実現しない」と言ってました。
僕は「思想統制が大好きな人っているよね」と思ったものですが、
(現実的には、そこで吸う喫煙者がなにを考えていようが周囲に健康被害を与えない設計をすれば良いだけです)
そこには学術的な理由、つまり「受動喫煙の害を前提としなければ、受動喫煙の疫学・統計計算が成り立たない」という、論理的要請があったのかも知れません。
けどそれは結局、自分の都合だ。
疫学の都合に、世界が合わせろと言っている。

僕が「その計算の前提を忘れちゃいけない」と言うのは、ここのところです。
「受動喫煙で1万人死亡」とか「喫煙離席で経済損失1兆円」とか、そういう試算をするなとは、僕は言いません。
ただそれが前提とした、あくまで仮定であるところの条件を隠して、その数字がまるで無条件に正しい科学的事実であるかのように吹聴するのはよろしくない。
ましてや国家資格を持った医師の団体や、政府・省庁なんかが、
その数字をある物、または人を排斥する為に使うなんて、とてもよろしくない。
と言っています。

注(8)

「金額はともかくとして、喫煙者の医療費が非喫煙者より多いことは認めるんだな?」という嫌煙者のツッコミが聞こえます。
はい、ここで示された『2005年度の超過医療費1兆3211億円』が真実らしいと、
煙福亭は認めています。
ただちょっと落ち着いて、少し前の話を思い出してください。

「喫煙離席」の話です。
五十嵐中が調査した結果、喫煙者が1日にとる休憩時間は、非喫煙者よりおよそ5分だけ長いことが推計されました。
それを「生産性損失」とか大げさに言うのって、ちょっと恥ずかしくないですか?
けれどこのたった5分でも、日本中1年間で国内純正産から計算すれば、「5496億円」という、かなりそれっぽい数字になるのです。

そこで「超過医療費1兆3211億円」に戻りましょう。
まず国民医療費には自己負担分が含まれています。これをざっくり一律3割で計算すると、こう分けられます。
自己負担額:3963億円
保険給付額:9248億円
この9248億円は、誰が負担するのか。
喫煙者を含む、国民すべてですね。
(細かく言えば、社会保険の家族だと扶養者は負担してないことになりますが。まあ、ざっくりで)
9248億円を国民1億2千万人で割れば、年一人当たり7,707円の負担です。
ちなみに9,248億円は、2005年の国民医療費33兆1289億円の2.8%になります。

なんて言うか、バカバカしくなりませんか?

お金の価値は人それぞれですが、言ってみれば7千円ぽっちのことです。
お役人がこういう金額をつつくのは職業柄しかたがないかも知れないですが、役人風情ではない普通の日本人がこの程度の金をごちゃごちゃ言うのは、
あまりに了見が狭い。

この「了見が狭い」という言葉に表される、伝統的な倫理が忘れられてしまってる。というのが、僕がこういう話を聞いていて嫌に思うところです。
そういうの「拝金主義」って言います。それか或いは「拝数主義」でしょうか。
聞き覚えのない言葉でしょうが「拝数主義」っていうのは、「数字を出されたら論理も倫理も頭からすっ飛んで、ただ拝んじゃう」っていう頭のことです。

僕はそういうの、ダサいと思っているんですよ。

コメント

  1. […] ※すいません!途中で計算を間違ってました(恥)そのうち記事自体を書き直します!それまで受動喫煙起因死亡数の計算については、別の記事をご参照ください。https://smokepeace.net/notes-to-smoking-cost-benefit/ […]

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