30年ピークと年令調整死亡率の合わせ技

「日本の喫煙率は1966年以来下がり続けているのに、肺がん死亡者が増え続けているのは、喫煙と肺がんに関係がないということだ」
 っていうのに対して、
「これは全くのデタラメだ」と反論があります。

 この反論は、2つの論拠を持っているようですね。
 ひとつは「30年ピーク」=「タバコ病の流行モデル」と言われるもの。もうひとつが「年令調整死亡率」というもの。

 タバコを吸ったらすぐに肺がんになる、訳がない。これは誰にでも理解できることです。
 なので喫煙率ピークの30年後に、肺がん死亡のピークが来る、という仮説。これが「タバコ病の流行モデル」=「30年ピーク」論

 また高齢になればなるほど、肺がんで死ぬ可能性は高くなる。これも理解できる。
 そこで肺がんに限らず、がん治療の進展を測るために導入されたものが「年令調整死亡率」。
 厚生労働省の「がん対策推進基本計画」に基づき、国立がん研究センターが算出した数値で、正しくは「75歳未満年令調整死亡率」ですね。
 この計画は2005年からの10年で、全ガンの75歳未満年令調整死亡率を20%引き下げることを目標にしていました。同センターでは1995年からの数値を算出しています。

※どんどん説明を進めておりますが、必要と思われるデータは、下にリンクで示していますので、参照してください。

 さてでは、
「日本の喫煙率は1966年以来下がり続けているのに、肺がんの死亡者が増え続けているのは、喫煙と肺がんに関係がないということだ」に対する反証を見てみましょう。

「タバコと肺がんは関係ない」説の元が上のグラフ、下のグラフが「30年ピーク」と「年令調整死亡率」を使った、反論の論拠となるものですね。

 実際に喫煙率のピークは1966年、そして「年令調整死亡率」のピークが1996年です。
 つまり「喫煙率ピークの30年後に、肺がん死亡のピークが来る」という仮説は、年令調整死亡率を使えば立証されるものに見える。そして年齢調整死亡率を使えば、喫煙率と肺がん死亡率には相関関係がある=「肺がんの一番の原因はタバコである」、ように見えるのです。

 さてでは、検証のためにもう一個グラフを見てみましょう。これもまた国立がん研究センターが公表しているもので、上に言った「がん対策推進基本計画」の検証のために作成されたもの。
 肺がんの75歳未満年令調整死亡率の推移(1995〜2015)と、前後半の10年間で死亡率がどれだけ減少(もしくは増加)したかの割合を測ったのです。

 注目は、1995→2005年の減少と比べ、2005→2015年の減少幅が小さくなっているところです。

 そもそも厚生労働省の計画はこの2005→2015年の数値を20%減らすこと。結果として、全ガンでの減少は16%で目標未達。肺がんについては「死亡率の減少が鈍化している」いう評価でした。

 さてでは、僕らの課題である「喫煙率と肺がん死亡率の関係」を見てみましょう。
 勿論、「タバコ病の流行モデル=30年ピーク」仮説を前提として、です。

 上のグラフで問題となっている年度の、男性の肺がん75歳未満年齢調整死亡率。これとその30年前に当たる男性喫煙率を表にまとめてみました。
 上段・喫煙率のすぐ下に、そこから30年後の年間調整死亡率を配置。「減少率」はそれぞれの10年間で、それぞれがどれだけの割合で減少したかを示すものです。(注)

減少率は「1ー(25.0%÷28.6%)≒12.6%」と計算します。
*は計算すると「9.2%」ですが、上のグラフに合わせました。ここで計算値がずれるのは、上のグラフでの年令調整死亡率は、2015年の値がまだ推計値であったため。表では下のリンクにある確定値を使っているからです。

 はい、おかしな結果になりましたね。
 前半の10年と後半の10年、減少率を見比べると、

 年令調整死亡率は、前半が大きく後半が小さい。
 喫煙率は、前半が小さく後半が大きい。

 年令調整死亡率と30年ピーク理論を適用すれば、喫煙率と肺がん死亡率には相関関係がある……そうでなければいけない筈です。
 そうでなければ、これらのデータから「肺がんの死亡者は喫煙率の減少に伴って減少している」故に「肺がんの最も大きな原因はタバコである」などとは言えない。

 で実際には、そうなっていない。

 試しにこれをグラフで見てみましょう。無理やりですがこの推移が見えるように、重ね合わせてみます。
 赤で示すのが喫煙率青が年令調整死亡率
 ついでに10年毎の減少率を直線で示すと、両者は似た推移を示すどころか、逆「く」の字型になってしまうのです。

 
という訳ですね。
 つまり、喫煙率の減少と、肺がん年齢調整死亡率の減少には、相関関係はない。です。

 喫煙率のピークは1966年で、肺がん年齢調整死亡率のピークが1996年。ここに30年のタイムラグはある=「30年ピーク」仮説が当てはまるかのように見えます。が、言ってみれば、それだけです。上の水色のグラフを見ただけでも分かるように、そもそも両者の減少を示す折れ線は、まったく並んでなどいないんですから。
 で、喫煙率と年令調整死亡率の推移が相関関係をもっていないならば、この年齢調整死亡率をつかって「30年ピーク仮説」の論拠とすることは出来ません。1966と1996の二つのピーク間がちょうど30年なのは、ぶっちゃけ「偶然」です。

 両者の相関関係を示すのであれば、せめて下のグラフのようでなければならないでしょう。

 ただ僕には、このグラフにも異論があります。何故ならタバコは一人当たりの消費量がマチマチなのに対して、肺がんで死ぬのは一人一人だからです。下のグラフ(日本のデータ)で分かるように、喫煙者数の増減とタバコ消費量のそれとは、必ずしも一致しない。勿論ここには、人口や年令構成比が勘案されていない。また喫煙量が多ければ肺がん死のリスクが高まる、ということはあるでしょう。しかし少なくとも上のグラフは、これを調整したデータによって作られているとは言えないと思います。


「じゃあオマエは、タバコと肺がんには何の関係もないって言うのか」という感想を持つ方はいるでしょう。僕の答えは「分からない」です。
 ただここまでの検証をみた僕の仮説は、「タバコは肺がんの一番の原因ではない」です。ならば一番の原因とはなにか、僕に言わせれば「加齢」です。最初に示した2つのグラフ(水色バックのもの)を見れば一目瞭然だと思います。
 人間は歳を取ると(おそらくは免疫機能が弱まるからか)肺がんに罹り、死に易い。当然のようであまり聞きたくないお話しですね。受け入れたくはない。だからこれから目を逸らしたい人にとっては、「タバコが肺がんの一番の原因だ」は有り難いのです。人が持つ、この当たり前の恐怖につけ込んだのが、「タバコが肺がんの一番の原因」説であるように、僕には思えます。

(注)ここで「男女計」ではなく「男性」データのみを使っているのは、該当する年度の女性喫煙率が、目に見えて減っているわけではないからです。女性の喫煙率が明確に下がり始めるのは、2000年以降と言ってもいいいでしょう。これでは比較検証がしづらいのです。

リンク集

僕は医者でなければ、専門的に疫学・統計学を学んだのではありません。ですので皆さんも是非これを検証して、僕にその結果を教えてください。或いは疫学・統計学をしっかり学ばれた方のご意見をいただけたなら、望外の喜びです。


30年ピークと年令調整死亡率で喫煙と肺がんの関係を主張するものとしては、この記事が分かりやすいと思います。
https://www.kinen-sensei.com/%E3%82%BF%E3%83%90%E3%82%B3%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%82%E3%81%82%E8%A8%80%E3%81%88%E3%81%B0%E3%81%93%E3%81%86%E8%A8%80%E3%81%86/%E5%96%AB%E7%85%99%E7%8E%87%E3%81%A8%E8%82%BA%E3%81%8C%E3%82%93/

他に津川友介氏が書いたものも載せておきましょうか。
https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugawayusuke/20200403-00170596/


年令調整死亡率の推移を示すグラフは、以下のリンクのほぼ一番下「関連ファイル」の内「がんの75歳未満年令調整死亡率2015年集計結果」というpdfファイルで見ることができます。(なお、このグラフは2013年以降のデータは推計値となっています。これに対しもう一個下のリンクでは2015年のデータまでが確定値となるため、少し数値がズレます)

がんの75歳未満年齢調整死亡率2015年集計結果とがん対策推進基本計画におけるがん死亡者の減少目標について
国立がん研究センターのホームページです。


肺がんの年令調整死亡率は、以下のリンクから、「1.死亡」→「都道府県別がん死亡データ(1995年〜2018年)」→「部位別75歳未満年令調整死亡率(1995年〜2018年)」のExelデータを見ることで、このデータが入手できる。

集計表ダウンロード:[国立がん研究センター がん統計]
国立がん研究センターがん情報サービスの「がん統計」「がん対策」に関する情報を掲載したウェブサイトです。

「年令調整死亡率」とは? 以下のリンクに説明があります。
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/age-adjusted.html

もし人口構成が基準人口と同じだったら実現されたであろう死亡率のこと。がんは高齢になるほど死亡率が高くなるため、高齢者が多い集団は高齢者が少ない集団よりがんの粗死亡率が高くなります。そのため仮に2つの集団の粗死亡率に差があっても、その差が真の死亡率の差なのか、単に年齢構成の違いによる差なのか区別がつきません。そこで、年齢構成が異なる集団の間で死亡率を比較する場合や、同じ集団で死亡率の年次推移を見る場合にこの年齢調整死亡率が用いられます。年齢調整死亡率は、集団全体の死亡率を、基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせた形で求められます。基準人口として、国内では通例昭和60年(1985年)モデル人口(昭和60年人口をベースに作られた仮想人口モデル)が用いられ、国際比較などでは世界人口が用いられます。年齢調整死亡率は、基準人口として何を用いるかによって値が変わります。年齢調整死亡率は、比較的人口規模が大きく、かつ年齢階級別死亡率のデータが得られる場合に用いられます(標準化死亡比参照)。年齢調整死亡率={[観察集団の各年齢(年齢階級)の死亡率]×[基準人口集団のその年齢(年齢階級)の人口]}の各年齢(年齢階級)の総和 / 基準人口集団の総人口 (通例人口10万人当たりで表示)

喫煙率のデータは、以下のリンクより
http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd090000.html

「Don’t Trust Over Thirty」……ロックが若者の音楽だった昔には、こんな言葉があったのですね。
はい、ただ「30」が共通してるだけのチョイスです。

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