https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000130674.pdf
※すいません!途中で計算を間違ってました(恥)そのうち記事自体を書き直します!
それまで受動喫煙起因死亡数の計算については、別の記事をご参照ください。
https://smokepeace.net/notes-to-smoking-cost-benefit/
厚生労働省いわく、「日本では受動喫煙が原因で年間1万5千名が死亡」。
つい信じちゃうようなお話ですが、コレは別に死亡診断書に「受動喫煙症」と書かれたものを集計したのではありません(というか「受動喫煙症」はあだ名みたいな病名なので、書いてあったらマズいです)。統計データから計算された推定値です。
とは言え「厚生労働省が公表してる数字なんだから、ちゃんと根拠があるもんじゃないの?」と考えちゃいますよね。では実際に、どんな基準でどんな計算がされてるのか見てみましょう。
上の広告にちゃんと資料が示されています。計算にかかる資料は左下の3と4ですね。ネット上で探せばすぐに見つけることができます。
3がここ。
https://www.hws-kyokai.or.jp/images/ronbun/all/201011-3.pdf
4がここです。こっちの資料が本丸だと考えていいでしょう。
https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201508017A
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/25303
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2015/153031/201508017A_upload/201508017A0004.pdf
全部読むのは大変ですから、ざっくり解説していきましょう。
前提として知ってもらいたいのが、この「15000人」は「受動喫煙原因で、問題となる4つの病気のどれかに罹り、死んだ人の数の合計」だと言っている、てことです。なので問題となる計算は、それぞれの病気の死亡数のうち、どれだけが受動喫煙原因で死んでるかってものになっています。
まずは用語。この計算で使われる数字は4つあります。
A…その病気での年間死亡者数
B…喫煙率
C…相対リスク(喫煙/受動喫煙による疾患リスクの増加度)
D…曝露割合(能動喫煙率と受動喫煙率)
AとBはまず分かる。聞き慣れないのはCとDですね。
C「相対リスク」
これは疫学調査によって導き出されます。今の場合で換言すると「タバコ吸ってる人(或いは受動喫煙してる人)がその病気にかかる可能性(リスク)を、そうじゃない人との比較で表した数字」です。なので「1.3倍」などと表記します。
D「曝露割合」
これは単純。「能動喫煙率」と、「非喫煙者のなかで受動喫煙経験がある者の割合」です(注1)。なので前者はBと同じもの。いわゆる喫煙率と同じように、アンケート結果からその割合を導きます。この計算では「家庭での受動喫煙」「職場での受動喫煙」に分けて計算されます。
さてではこれらの数値をもとに、如何にして「受動喫煙原因の死亡者数」を算出するか。厚労省の報告書に計算式はありますが、ここは名取宏(なとろむ)さんの解説を参考にさせてもらいましょう。この名取さんは「この計算の正しさを説明してあげる」って立場ですので、嫌煙者の皆さんも安心ですね。
ここで例として計算するのは、「女性が家庭における受動喫煙を原因に肺がんで死亡した数」です。計算を簡略化する為に数を丸めていますので、
A=20,000人(女性の肺がん死亡者数)
B=10%(女性の喫煙率)
C=2.8倍(能動喫煙)1.3倍(受動喫煙)
D=30%(家庭での受動喫煙者)としています。
下の棒グラフを見てください。計算は大きく2つの段階を踏んで行きます。
①と③を導く計算です。②は参考値とお考えください。
まずこの①から。
20,000×23.7%≒4700
20,000ー4700=15,300
*23.7%≒2.8÷(9+2.8)
この23.7%は「能動喫煙原因死者数の割合」です。
これを計算する為に「相対リスク=2.8倍」が使われています。
この2.8倍を使って23.7%を求める方法が(*)の計算です。
② 20,000×90%×30%=5400人
受動喫煙の曝露割合とは「非能動喫煙者中の受動喫煙者の割合」ですので、こうなります。名取さんがここで何故5500人としているのかは知りません。或いはここでも数字を丸めたのかもしれません。
③つまり「日本女性が家庭における受動喫煙を原因に肺がんで死亡した数」です。
15,300人(①)×8.3%=1269.9…人(≒1300人)
*8.3%≒9÷(70+39)
ここでは「相対リスク=1.3倍」と「曝露割合=30%」が使われています。
*100人中30人が受動喫煙者、この30人は他の70人と比べ相対リスク1.3倍なので「30×1.3=39」。つまりある集団内で非受動喫煙者70人が肺ガンで死んだ場合、受動喫煙者は39人死亡すると考えます。このうち受動喫煙原因で死んだ人は、「39−30=9人」であると推定するのです。なので、この9人が109人に対して占める割合が8.3%であるという計算です。
③は、意味合いとしては「5400×(0.3÷1.3)≒1246人」という計算と同じだと考えられます。ちなみに、実際の厚労省・平成27年の報告書にある「日本女性が家庭における受動喫煙を原因に肺がんで死亡した数」は、1254人です(注2)。
同様の計算を「職場における受動喫煙」にも行い、「男性の受動喫煙者」についても行い、「脳卒中」や「虚血性心疾患」そして「SIDS=乳幼児突然死症候群」についても行って、この合計が「15000人」となるのです。下の表が見難ければ、上の「4」に入ってます。pdfをダウンロードして下さい。
さてでは僕たちが計算した「約1300人」の意味とはなんでしょう?
上の計算を言葉で簡単に表現すると、「ある病気による死者数全体から受動喫煙者の数を割り出し、相対リスクによってこの内から、受動喫煙原因の死亡者数を推計したもの」、となります。
もっと単純に言えば「死者数に対する受動喫煙者の割合に相対リスクを勘案したもの」です。
つまりこれによって算出される数字は、「日本で受動喫煙により死亡した数」ではなく、「ある疾患の主原因が受動喫煙であると仮定した場合には、その原因による死亡者が確率的にこれ位はいてもいい、と考えられる数字」ということです。
それを真としていいのか、と僕は疑問に思います。
この計算に含まれる実数は、「肺がん」や「脳卒中」の死亡者総数だけです。そのほかの数字はすべて統計(疫学)によって割り出された推定値であって、計算全体としては確率計算に過ぎません。確率計算を良しとし、「受動喫煙が脳卒中などの主原因である」を真とするのであればこの計算は、名取浩が胸を張るように「受動喫煙者の肺がん死の全てが受動喫煙原因ではないなんて十分わかった上での計算だ」と言えるでしょう。
しかしこの15,000人のなかには、「受動喫煙により死亡」と診断された人は一人もいないんです。この計算はあくまで、「ある疾患の死亡数」に「曝露割合」と「相対リスク」をかけたものに過ぎません。「この国で受動喫煙を受けた者は何割いるか=曝露割合」と「死亡した人の何割が受動喫煙者であったか=相対リスク(注7)」という統計データが存在するだけなのです。「受動喫煙が原因」は、あくまで「仮定」です。この仮定がおかしいならば、この数字はそもそもの計算意義を失ってしまいます。
そして今現在、これら統計データに基づく疫学報告以外には、「受動喫煙が人を殺した」と言えるエビデンスは存在しないのです。
またこの数字にはあと2つ、問題があると僕は考えます。
一つは、この数字を導きだす基準となったデータの信用性、妥当性が低いということ(α)。もう一つは、これがあくまで厚労省の『広告』であること(β)です。
(α)問題となる数字は「相対リスク」そして「曝露割合」です。
ここで使われた「相対リスク」は、幾つかのコホート研究、ケーススタディー研究を合わせたメタアナリシスを根拠とします(この辺の疫学用語については、自分でwikiるか前に書いた記事『疫学』を参照してください)。
まず「肺がん」の相対リスクについては、国内9つの論文からなるメタアナリシスです。ですがここに含まれる調査の大部分が前世紀中に完了したものであり(注3)、また最も多くの人年数(注4)を調査しているのは平山雄の1965〜80年の調査。つまりこの報告書時点からでも35〜50年前の数字を使っているのです。一口に言って、データが古過ぎるんです(日本の喫煙率は1966年で83.7%、2018年で17.9%)。
その他の疾患での相対リスクを決めているのは、もっと実態から遠いと考えられます。すなわちここで使われた相対リスクは、日本の調査ですらない、アメリカの研究報告からの引用なのです。
次に受動喫煙の「曝露割合」。これもデータが古い。SIDS以外の曝露割合は2004年報告書によるもの、つまり10年以上前のデータ。SIDSに至っては2001年で実に15年前。2000年から2018年の間に、男性喫煙率はほぼ半減しています。この状況下にあって10年や15年前の「曝露割合=受動喫煙者率」が数字的妥当性を持つとは到底考えられません。
しかしそれ以前にこの曝露割合の算出ですが、基準がズサン過ぎます。すべて自己申告のアンケート結果に頼っていて、「ほぼ毎日」から「月1回未満」までが同資格で加えられていて年齢の違いもまったく考えられていない。ましてやSIDSの曝露割合の実態と言ったら……これは後述します。
(β)「日本では受動喫煙が原因で年間1万5千人が死亡」、一番上の厚生労働省の報告は、紛れもなく広告です。そうでなければこの見出しの文章は、正しく「これら4つの病気では、年間死亡者26万4千人(注5)の内、1万5千人が受動喫煙原因で亡くなっています」と書かれている筈。
こっちが見出しであったらどうでしょう。ものすごくインパクトが薄れます。こんな文句を書いたコピーライターは即刻クビになっちゃいます。けれどあなたは「それでも1万5千人は無視できない数字だ」というかも知れない。そこが広告の怖いところです。先に「1万5千人!」という数字のインパクトを見せられれば、後から詳しい事実を述べられても先の印象から抜け切れないのです。
しかしそれ以上にこれを広告であると断じる理由は、ここに「SIDS=乳幼児突然死症候群」を含めた事です。73人という数字上のインパクトが低いこの病気を入れた意図は明白で、「受動喫煙が子どもを殺す」というイメージを植え付ける事です。またそれ以前にSIDSという病気は、厚労省のガイドラインでも「なんらかの病因を有する疾患であるにもかかわらず、病理学的所見が認められない(注6)」とされているもので、つまりほとんど何も分からない病気なのです。このような病気の原因をタバコに求める事自体が安易で不謹慎だと僕には思えます。
実はSIDSの死亡者数全体に対して喫煙原因死亡者数とされる73人は、なんとほぼ50%(!)。ここにはカラクリがあって、「父親の喫煙による曝露割合」が63.2%と、かなり高い数値になっているのです。何故かと言えばこの数字は「新生児の親のうち喫煙と答えたものの割合」だからです。
「バカじゃねえの?」と思います。今時、乳幼児の近くで、いや、乳幼児のいる部屋でタバコを吸うバカ親が、この63.2%のうち何%いるでしょうか。妻が妊娠したらホタル族→その後禁煙、が僕ら世代(2001年で30歳)のタバコ吸いのスタンダードであって、この20年でその数はさらに増えているでしょう。というか繰り返しになりますが、この間、男性喫煙率そのものが半減しているのです。
疫学というものは、幾つかの調査研究を統合すればメタアナリシスと呼ばれ、「エビデンス」であるとされます。「鼠も殺せない程度の受動喫煙でも(確率的には)赤ちゃんを突然死させることが出来る」と言い得てしまいます。この研究の出発点は勿論「受動喫煙がSIDSの原因である」という仮説です。そうして生まれた結論である「受動喫煙が赤ちゃんを殺す」が「これらの疾患の原因を受動喫煙とすれば」という仮定の動機となる。仮説から生み出された結論が、同じ仮説を生み出す為の動機になってしまっています。このウロボロスな循環から抜け出さない限り、受動喫煙の健康被害が確かな科学的根拠を持つことはないでしょう。
ホントむかつくのでもう一回言いますが、こんなもんは所詮、はなっから広告なんです。広告をそのまま信じ込んでちゃあ、現代人は務まったりしないんです!
(注1)そんな単純な筈ないだろ? と思われるかも知れませんが残念、本当です。僕なんかはこれを「受動喫煙者が受ける煙の『曝露量』を、能動喫煙者のそれと比べた割合」だと勘違いしてました。だって「曝露割合」なんてカッコいい字面を見たら、難しい言葉だと思っちゃうじゃないですか。…てゆーか、うがった見方をすると、わざと難しげな言葉を使ってその正体を誤魔化したいんじゃないかとも思えます。いやそうとしか考えらんない!
(注2)「対象集団全体における受動喫煙人口寄与割合」と報告書で言われている数値の計算式の最終式が下になります。「」内の言葉をこの場合に合わせて換言すれば「女性肺がん死亡者数のうちの、受動喫煙原因死亡者の割合」ってことです。
小文字がうまく表現できないので、この「P〜なんとか」を左から①②③④として解説すると
①が上に言った「女性肺がん死亡者数のうちの、受動喫煙原因死亡者の割合」
②が「非喫煙者中の受動喫煙原因死亡者の割合」
③が「女性肺がん死亡者のうち能動喫煙原因死亡者の割合」
④が「女性の喫煙率」
(注3)上にリンクさせた「4」のなかに含まれていますが、こっちのが見易いかも知れません(その分大ざっぱですが)。https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2016/0831/index.html
(注4)「人年数」は疫学用語で、「何人を何年間調査したか」です。「10人を5年間調査」しても「5人を10年間調査」しても、人年数は同じく「50人年」となります。MY=man-yearも同義。
(注5)「2014年人口動態統計」からの概算です。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei14/index.html
(注6)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/sids_guideline.html
(注7)「死亡した人の何割が受動喫煙者であったか=相対リスク」は、文章に馴染ませるための、かなり乱暴な物言いです。
本来の「相対リスク」は、上のCに書いたように「受動喫煙してる人がその病気にかかる可能性(リスク)を、そうじゃない人との比較で表した数字」であり、疫学(=統計)調査によってもたらされるものです。
この疫学調査では「受動喫煙原因で肺がんに罹った人の割合を調査した」のではない。「ある集団の中から、肺がんで死亡した人数、受動喫煙を受けた人数、受動喫煙を受けていて肺がんで死亡もした人数、を調べて、それぞれの割合を調査したもの」です
あり得ない話を仮定すれば、「100人の肺がん死者を調べ、この内6.5人が受動喫煙原因での肺がん罹患だと証明された。故に20000人の肺がん死者には、1300人の受動喫煙原因死者が含まれると言える」ならば、まったく問題ないと言えます。
しかしこれは現時点ではあり得ない。
「この人が肺がんに罹った原因は受動喫煙にある」と診断した医者がいたとしたら、医学界は大騒ぎになります(医学界がまだまともであればですが)。何故なら彼は、癌細胞の(或いは遺伝子の)全てを知り尽くした世界で唯一の医者である、ということになるからです。
色々な意味で変態ミュージシャンであるフランク・ザッパが1981年に出したアルバム。この人のアルバム中、ロックとしては一番聴き易いアルバムと言えるでしょう。ここでの注目曲が「Heavenly Bank Account」。アメリカのTV伝道者についての歌です。
「ヤツらは2千万ドルを天国口座に貯め込んでる」
麻生太郎は確かに2千万ドルくらい楽勝で持ってるかも知れませんが、それはむしろ地獄口座にです。では天国口座に金を貯め込んでる、或いはそれを目論んでるのは誰なのか、を考えてみて下さい。
コメント
>つまりこれによって算出される数字は、「日本で受動喫煙により死亡した数」ではなく、「ある疾患の主原因が受動喫煙であると仮定した場合には、その原因による死亡者が確率的にこれ位はいてもいい、と考えられる数字」ということです。
15000人をどう理解するか、自分にはとても難しいのですが、上記の説明のおかげで何とかイメージをつかめました。
伝わってくれてると嬉しいです。
SIDSに顕著ですが、タバコに関する疫学はつまり「容疑者を特定してから状況証拠を集める捜査みたいなもん」だってことを言いたいのです。原因不明の疾患なのに受動喫煙原因が50%になるっていうのは、その手法の稚拙さの表れだと思うのです。