いやそりゃあね? 世の中の空気とか動きってものがそうなって来てるってのは分かってましたよ? 肌にビシビシ感じていましたとも。
ハイハイ副流煙がヤバイって言うんでしょ?俺がタバコを吸うせいで、あなたの健康が損なわれるんでしょ?肺ガンになって死んじゃう人が何万人とかいるんでしょ? 聞かされてます分かってます。30年来、そんな話ばっかり聞かされていますともさ。タバコを吸っているとさあ。
「タバコ吸って健康にいいことなんて一つもないよ」
そんなことでこのオレ様が、タバコをやめる訳がねーだろーが。
そもそも私がタバコを吸うようになったのは今から二十七、八年前。急に話が細かくなりましたね。三十年前じゃいけないんでしょうか。世相を感じてもらう為ですね。27年前というと1993年ということになります。当時私は大学を卒業したかどうかって年頃でして、ここを分かって欲しかったのです。
私らの世代では、タバコを吸い始めるヤツは大抵ハタチ前に吸い出します。高校デビューや大学デビューっていうのが、メジャーなタバコ吸いではなかったでしょうか。私はそういうのダセエな、って思っていたんです。「タバコは二十歳から」って言われるからイキがってその前にタバコを吸う。酒を飲む。その「イキり」がダサいって思ってたんですよ。だからタバコを吸うなんてのはずっと拒否して生きていたのです。
それがどうして二十二、三になってから?
それはその頃から「健康のためタバコはやめましょう」運動が活発になって来たからです。ダセエな、って思ったからですよ。その健康至上主義が。それでタバコを吸うことにしたのでした。二十二、三になってから。
「健康健康って、テメエ様が長生きすることがそんなに大事なの? 大声でそんなこと言って恥ずかしくないの? 食うものも食えずに死んでいく子どもが沢山いるこの世界で?」
内心にそう思って、けれどそんなことを大声で言って回るような真似が出来る性格じゃなくて、だから黙ってタバコを吸い始めたんですね。
以来タバコをやめる機会を持てずにここまでやって来たのは、つまり世の中に「タバコは健康に良くないから素晴らしい」っていう声が蔓延することがなかったからです。「タバコは正義」とは誰も言ってくれないからです。「タバコを吸って強い日本を取り戻す」とか自民党が言ってくれれば、さすがの私もタバコをやめることを考えたはずなのですが。
全然世の中ってのは、そんな風にはならないですね。
喫煙席ってのをわざわざ設けるようになりました。全店禁煙って店がどんどん増えていきました。ちょっと大きな街になると大抵、駅近辺を禁煙エリアってことにしています。
まあそれはいいのです。断然いいことなんですけれど、「タバコ=悪」というイメージが、今じゃあしっかり根付いてしまってるのには閉口しますね。ちょっとでも煙が体内に入ったら即座に肺ガンになるかのように言い出す嫌煙者が多いのにはちょっとビックリしてしまいます。タバコの煙はコロナウイルスとは違うんですけど。
あとタバコ吸いにはどんな罵詈雑言を浴びせてもOKみたいに考えてる人がいるのも唖然、ですね。まるでタバコ吸いが中国人か韓国人であるみたいに、バカだのクソだの害悪だのって、ヘイトスピーチに晒されたりしているようです。
私自身はネット上でしかこういう悪口雑言を耳にしたことがないんですが、「受動喫煙防止条例」を他に先んじて制定した我が神奈川県では、路上でタバコをふかしたら年配男性が遠くから走って怒鳴りつけてきたり、という例が何件もあったりするようです。また医者から禁煙するようにと延々説教されて、それでも禁煙しないと言ったら「あなたとはもう口をききたくない」と言われただとか。医者が患者にそんなこと言って、倫理的にOKなもんでしょうか。いやOKなんでしょうね。相手が喫煙者だったら。
健康のために禁煙を薦める、タバコが嫌いだから喫煙者も嫌い、そんなのは普通のことでべつに構わないんですけど、上にあげた人達はその域を軽々と越えちゃってますよね。その上でそんな自分の感覚を他人に押し付けようとさえする。社会全体に広めていくのが正義だとすら思っている。いや信じてる。「禁煙ファシズム」なんて言ったりしますが、ちょっとそれ人としてどうなの?と思わずにいられません。
愛煙家シンポジウムっていうのを開催したら「禁煙ジャーナル」なんてのを発行してるトコから会場となった施設に抗議があっただとか、『風立ちぬ』って映画に喫煙シーンが多いと「日本禁煙学会」が抗議文書を公表したりだとか。
「学会」が? それもう科学を超えて宗教の域に達してますよね。
敵を設定して、それを攻撃せずにはいられない人達ってのが世の中にはいます。人を自分より劣ったものと見做して、これを蔑まずにいられない人達がいます。今この国には、いや世界中に、そんな人達が増えて来てる気がします。いや実際、増えて来てますよね? おそらくは主に、「先進諸国」においてさ。
自分が正義で、悪に対しては罰を与えずにはいられない、十字軍主義者どもめ。
神の正義に取り憑かれた嫌煙主義者たちに、か弱い喫煙者たちは今、世の中から駆逐されようとしている。
ああちくしょう、タバコを吸うぞ。
禁煙ファシズム、って言うのがちょっと恥ずかしくて、エロい画像でごまかしてみました。1974年のイタリア映画「愛の嵐(The Night Porter)」ですね。
高校生の頃エロ目当てでレンタルして観たのですが、内容ほとんど覚えていません。退廃ムードの変態映画だったような…。名作らしいのにごめんなさい。
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