受動喫煙症診断が「政策目的」ってどういう意味なのか

横浜副流煙裁判・控訴審に出された意見書のなかで、作田学医師はさまざまに言葉を替え論点を替え、自身に下された「医師法20条違反」の汚名を返上しようとしていました。
このなかで今回考えたいのは、2020年2月17日付「甲66号証」意見書の「(6)まとめ」として書かれた文言です。

医師法第20条の趣旨は、治療の安全性を確保するためとされている。たとえば、千葉地方裁判所平成12年6月30日判決は、患者を診察せず、両親の話から統合失調症と診断した事案について医師法第20条違反を否定している。
本文書(甲3号証・無診察の診断書)は「診断書」名目ではあるが、実質的には「意見書」であって、本書の記載内容によって、原告を受動喫煙から保護し、利益を与える可能性があっても、原告に危害や不利益が発生し得る可能性がある、とは言えない。本件は原告に対し、文書の記載内容に基づいた、手術・投薬等、侵襲や副作用を伴う治療を勧奨、支持するものでもなく、実施もされていない。また本文書にかかわるいかなる人物、団体にも不利益を発生させる目的を有しておらず、また、発生させてもいない。
したがって、本文書の記載によって、私が医師法第20条に違反している、とはいえない、と考える。

「本文書にかかわるいかなる人物、団体にも不利益を発生させる目的を有しておらず、また、発生させてもいない」とは、よくもまあ言えたもんだと思いますね。
この「診断書」こそが、藤井将登氏を被告とする、ほぼ3年間に及んだ裁判の、最重要の証拠となったのです(甲1〜3号証)。また自分で確かめもせず受動喫煙の「犯人」を特定する記述内容からは、藤井氏に対し「不利益を発生させる目的を有して」いなかったなどと考えることの方が難しい。

更に、多くの時間と費用を使わされたのは、なにも藤井氏一人ではありません。ほぼ3年に及んだ裁判の結果「棄却」とされた原告、つまり作田医師にとっての患者本人もまた、多くの不利益を被ったとすら言えるのです。

さて一つツッコミを済ませたところで、作田医師による「まとめ」の本題について見てみましょう。彼の言わんとしたことは、簡単にまとめると以下のようになると考えられます。

「無診察ではあっても、患者に侵襲や副作用といった危害を与えるものでなければ、そこで診断書が出されたとしても、医師法20条違反に問われない」

これは実は、他の日本禁煙学会所属医師(あるいは職員)が、「医師会?の見解」として口にしたものでもあります。※1

ではこの観点からすれば、作田学医師=日本禁煙学会理事長の「無診察での診断書発行」は「医師法20条違反」でないと言えるのか?
或いは横浜副流煙裁判について「いずれも理由がないから棄却すべきである」とした一審・高裁判決は、この観点を無視したものであったのか?
これを考えてみましょう。

作田医師の医師法20条違反を認定した横浜地裁の判決は、受動喫煙症の診断そのものについて「政策目的によるもの」との判断を示しています。

その基準(日本禁煙学会による診断基準ver.2を指す)が受動喫煙自体についての客観的証拠がなくとも、患者の申告だけで受動喫煙症と診断してかまわないとしているのは、早期治療に着手するためとか、法的手段をとるための布石とするといった一種の政策目的によるものと認められる。(一審判決文・12ページ)

ここにひとつ浮いた文言が挟まれています。
「早期治療に着手するためとか」
この文言がなければ上の文章はすんなり一文として読むことが出来るのですが、この一言が浮いている。これを理解するためには、一審判決を踏襲した高裁判決文のなかにある、次の文章に照らしてみるとよいと思います。

しかし、この点(受動喫煙症診断基準においては、受動喫煙自体についての客観的裏付けがなくとも診断が可能なものとされている)については、患者を治療するという医師の立場での診断方法としては理解しうるところではあるが、一方で、診断の前提となっている受動喫煙に関する事実については、あくまでも患者の供述にとどまるものであり、そこから受動喫煙の原因(本件では、被控訴人からの副流煙の流入)までもが、直ちに推認されるものとまではいい難い。(高裁判決文・8ページ)

この「患者を治療するという医師の立場での診断方法としては理解しうる」です。
この文を「理解しうる」ためには、受動喫煙症診断ではなく、他の一般的な医療について考えてみなくてはなりません。

例えば、マンガ家が痔瘻になって医者に行きます。患者は「座りっぱなしの仕事なので」と言い、医師は「そのせいですね」と答えるでしょう。
僕には「理解しうる」話です。自己申告を根拠とし、医師がマンガ家の仕事ぶりを見学していなくても、それを責めるつもりはありません。何故ならこの医師は必ずや、マンガ家の痔瘻を治すために手立てを尽くし治療を行うであろうと信じているからです。

考えにくいことですが、もしこのマンガ家と医師が出版社を訴えるためにだけ、診断書を出すだけの為に上の診断を下したなら、僕はこれに異を唱えることでしょう。ここで医師が「痔瘻を治療する方法は、彼がマンガ家を辞め、出版社から慰謝料を受け取る以外にない」などと言い出したら尚のこと、です。
作田医師が、受動喫煙症の診断書が行っているのは、つまりこういうことなのです。

こう考えてみると、一審・高裁判決があれらの文言で表そうとしたことが理解できるはずです。

「早期治療に着手するため」とは、マンガ家の痔瘻の例で言うと「原因探しに躍起になる前に治療を始めることを優先する」普通の医療行為ですし、「患者を治療するという医師の立場での診断方法としては」自己申告のみからその原因を推定したとしても、納得がいくところです。

すなわち、判決文が言わんとしているのは「治療を行う為でない、診断書のための診断であるならば、客観的裏付けのない疾病認定、また病因の認定は認められない」ということだと考えられるのです。

ならば横浜地裁が作田医師の「医師法20条違反」を認定しているのも、この観点を踏まえたその上で、診断書が診察をせず書かれたことを咎めたのだと言えます。
受動喫煙症というものは、日本禁煙学会と日本禁煙推進医師歯科医師連盟によってつくられた病気であって、医学一般に認められたものではありません。
国際的疾病分類「ICD10」にも、これに準拠した厚生労働省の疾病分類にも、「受動喫煙症」は存在しない。故にレセプト(健康保険組合に提出される診療報酬明細書)に病名として記載されることもありません。
それどころか日本禁煙学会によれば、受動喫煙症には治療法が存在しないのです。

「受動喫煙の完全停止、すなわち職場などの完全禁煙化のみが受動喫煙症の唯一の治療法である。」(『禁煙学 改訂4版』114ページ)

ならば「受動喫煙症の診断」には何の意味があるのか。あるいはそう診断されることに、どんな「利益を与える可能性」があるのか。
その答えは、当の日本禁煙学会が用意しています。

●受動喫煙にお困りなら、こうしましょうhttp://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/information/JUDOK20210218(2).pdf

受動喫煙症の診断書をとり→訴えでる。そして「最終的には裁判になるでしょう」
つまり患者の周囲の「完全禁煙化」に用するため、すなわち喫煙者に対し禁煙を強要する際の圧力として機能する。この為にこそ「受動喫煙症の診断」はあり、これ以外の役には立たない。受動喫煙症診察医は、受動喫煙症の「治療」などは、しない。
だからこそ患者の自己申告のみを根拠に受動喫煙症と診断し、その原因をも決定することができる。また診察すらしないで診断を下すこともできる。
すなわちそれが「政策目的」ということです。
このことが明らかに見えたのが横浜副流煙裁判であり、就中、日本禁煙学会所属医師の言動です。

当裁判の原告A家族は、二人の医師から受動喫煙症の診断書を受けています。

まず最初の一人、倉田文秋医師は2016年10月にA家族3名を「受動喫煙症(分類レベル3)」と診断しますが、この時には診断書を出していません。
その理由を倉田医師はこう説明しています。

訴訟にまで進まないと問題解決ができない可能性が推測され、「診断書が必要な段階になれば作成します」と説明をしております。(甲50号証の1 意見書)

そして事実、A家族が藤井氏に禁煙を求める内容証明を出す直前になって初めて、倉田医師は診断書を発行しています。

次にA家族を受動喫煙症と診断したのが、作田学医師。ただしこの内の一人(A娘)は診察を受けていない。これが「医師法20条違反」に当たるのですが、作田医師自身はこれを不当として、控訴審に意見書を寄せてあれこれ言い訳をするのです。

ただここで、仮に、作田医師の言をすべて真実だと考えてみましょう。

A娘は病状はかなり重篤であって病院までの移動にも耐えられず、かと言って往診をするにも、医師がその途上でタバコ煙に晒される危険がないとは言えず(サードハンドスモーキングの懸念)、「A娘の生命の危険を回避する、緊急避難として」作田医師は、「少しでも(藤井氏に)喫煙を控えていただけることの方を優先」し、やむを得ず無診察での診断書発行に至った。(ついでに「意見書」と書くべきところを、病院のカルテシステムの都合上「診断書」として出さざるを得なかった)
というお話です。

これがすべて真実であるとして、しかし本来ならば、ここで医師として出来ることが、他にあった筈なのです。

A娘を入院させることです。

大げさに思われるかも知れませんが、作田医師は「A娘の病状は重篤で生命の危険が差し迫っている可能性も推認された」と言うのです。ならば受動喫煙がゼロであろう病室にA娘を「緊急避難」させることは、正しく「受動喫煙の完全停止=受動喫煙症の唯一の治療法」である筈で、実際に為されていればこれは、消極的治療とは言え、世界初の、受動喫煙症について行う医師の治療ともなった筈なのです。

どうして受動喫煙症の権威、日本禁煙学会理事長ともある作田学医師が、これを行わなかったのか。
意見書の陳述に嘘がないとしたならば、僕に考えられる可能性は「そういうシステムだから」くらいです。

つまり受動喫煙症と診断することは、上記「診断書→訴え→最終的には裁判」という仕組=システムの一部であって、医療行為ではない、という可能性です。

患者の治療のためでなく、むしろこれを度外視して、喫煙者・喫煙環境に強制禁止の圧力をかける用途・目的のために出される診断書。これを武器にしての訴え→裁判。あらゆる人・場所の禁煙化推進という政策目的。※2
このために診断書を、「医療」を利用すること。
理事長である作田医師の行ったことからすれば、日本禁煙学会のつくり出した「受動喫煙症のシステム」は、このように解釈できるのです。

問題を最初に戻しましょう。

「患者に侵襲や副作用といった危害を与えるものでなければ、そこで書かれた診断書については、医師法20条違反に問われない」

これはあくまで、治療を前提とした通常の医療行為として発行された診断書について言われるべきものであると裁判所は考えた。僕はそう読み取りました。

作田医師が上の「まとめ」で引き合いに出した統合失調症の例でも、あくまで治療=投薬のため、診療を拒否する統合失調症患者のために為されたものであり、その限りにおいて止むを得ない場合には無診察での診断書発行も許される……こう捉えるべきものでしょう。

しかし「受動喫煙症のシステム」は、この一般的(或いは本来的)な「医療」のあり方を大きく逸脱しています。

ここで受動喫煙症診察医は、患者を見ているのではなく、その先の喫煙者・喫煙所を見ている。彼らに圧力をかけ、禁煙を強制するためにこそ、診断書を出す。
それ故、診断の根拠は患者の自己申告があればよく、実は診察そのものすら必要でなくなります。
このような「訴え→裁判」の為にする診断は、本来の医療と同列に考えられるべきではない。

何故なら、これが許されてしまうと、「治療の安全性を確保するため」 という(他ならぬ作田医師自身が言った) 「医師法第20条の趣旨」そのものが、問い直されなければならなくなるからです。
根拠も診察も必要とせず、ただ 訴訟の為にある診断・疾患、そんな存在を前提としたものに。

「診断書→訴え→最終的には裁判」という、日本禁煙学会とここに集う医師・弁護士らがつくりあげた「政策目的に医療を利用するシステム」
これがある為に或いはこれが医療界隈で認められている限り、司法そして社会は、今後「医師の診断」にすら疑いの目を向けなければならなくなる。
これは、医療と医療が培ってきた信頼に対する冒涜とすら言える、実に重大な問題だと思うのです。

では最後に、タイトルに戻ります。

受動喫煙症の診断が、また受動喫煙症という病名の出自そのものが「政策目的」であることは、すでに明らかとなっています。張本人からの自白がすでにあるからです。

私たちが「受動喫煙症」を2005年に考案した目的は、受動喫煙によって発症するとWHOや国際社会が認めている症患群を「受動喫煙症」にまとめ数十回、数百回の発症態様から次第に蓋然性が高まり、確実なものになっていくこと。そしてこれを根拠に、人々がタバコ煙に悩まされない社会を作り出していくことにあった。
私はこの裁判を通じて千葉一家がタバコの害から平穏を取り戻し、今後は藤井一家と良い関係を築いていっていただきたく思っている。私の望みはそれだけである

甲66号証意見書(6)まとめ、の後半部分です。
一審判決で「政策目的」と指摘されたその後で、日本禁煙学会理事長・作田学医師その人は、「判決文の認識が正しい」と、その認識を上書きしてるのですね。




※1
藤井敦子氏が日本禁煙学会に質問の電話をした際、対応した宮崎氏がその旨の発言をしていました。https://atsukofujii.com/2021/03/03/%e6%97%a5%e6%9c%ac%e7%a6%81%e7%85%99%e5%ad%a6%e4%bc%9a%e7%9b%b8%e8%ab%87%e7%aa%93%e5%8f%a3%e3%83%bb%e5%ae%ae%e5%b4%8e%e6%b0%8f%e3%81%a8%e3%81%ae%e4%bc%9a%e8%a9%b1/

※2
「圧力」という言葉を使ったのを、あなたは強すぎる言葉と受け取られたかも知れません。けれど横浜副流煙裁判の被告=藤井氏宅は、この件で警察からの取り調べすら受けています。しかも被害届などが出されていたからではなく、県警トップからの命令によって。裁判途上、原告側からそのことが明かされています。
県警本部長、しかも現警視総監の指示によって警察が動いた。この事実を受け取った側=藤井家の恐怖はどれほどだったでしょう。
「圧力」という言葉でも弱い、僕はそれは「恫喝」「脅迫」とすら呼ばれるべきであると思います。https://atsukofujii.com/2021/02/12/%e7%8f%be%e8%ad%a6%e8%a6%96%e7%b7%8f%e7%9b%a3%e3%81%ae%e6%8c%87%e7%a4%ba%e3%81%ab%e3%82%88%e3%82%8b%e3%80%81%e5%8f%96%e3%82%8a%e8%aa%bf%e3%81%b9%e3%81%ae%e5%95%8f%e9%a1%8c%e7%82%b9%ef%bc%88by%e7%85%99/



●横浜副流煙裁判・一審および控訴審判決https://atsukofujii.com/%ef%bc%91%e3%83%bb%ef%bc%92%e5%af%a9%e5%88%a4%e6%b1%ba%e6%96%87/

●甲66号証の1 作田学意見書
https://note.com/atsukofujii/n/ndf6c95624299

●甲50号証の1 倉田文秋意見書
https://note.com/atsukofujii/n/na262137552a1

●厚生労働省HP・社会保険表章用疾病分類
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/database/hokensippei.html

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